待ちに待った旅は……(1)

 それぞれの理由を胸に秘めた3人は、今日もその長く曲がりくねった旅路を行く。



「この森どこまで続くんですかね……」

 約丸1日歩いても抜けることができない陰鬱な森に、ダーウェントは愚痴をこぼした。

「あんた男でしょ。文句言うな。黙って歩け」

 オーバーベルは反射的に厳しい口調でいつものように弱音を吐いたダーウェントを罵る。

「ずっと思ってたんだけどベルってなんかダーウェントに当たり強くない? ダーウェント私の知らないところでベルに何かしたの?」

 二人の険悪なやり取りを聞いたチークムーンがダーウェントに尋ねる。

「なに言ってるんですか! 僕がお二人になにかするなんてありえません!」

 必死の弁明にチークムーンは苦笑を見せる。

「冗談だってば。あはは……ほら頑張って頑張って」

 その時、オーバーベルの肩にとまる薄紫の蝶が強く発光を始めた。

 危険を知らせるその合図にオーバーベルはわずかな異変に気づいた。

「二人とも静かに。血の匂いがする」

 囁くように、二人に注意を促したオーバーベルは周囲への警戒を強めた。

「誰か……魔物に襲われてるのか? 助ければ今夜は野宿を回避できるかも。急ごう」

 頷き合い歩調を早めた女子二人にダーウェントは少し遅れてついていく。心中で、恐れを抱くこと無く敵に立ち向かう二人の姿に驚いていた。

 しかしそれは単純に二人は自分よりも強い敵に出会ったことがなかったため、理解できなかったのかもしれない。ずっと負け続けた末に強さを手に入れたダーウェントの抱く恐怖というものを。

 ただしそれはオーバーベルにしか当てはまらない条件であった。なぜならチークムーンは1度自分よりも遥かに強い敵と出会い、トラウマを植え付けられている。


 モノクロの世界を映すチークムーンの瞳に、恐怖は微塵も浮かんでいない。

 ただしそれは、今この瞬間に限った話である――。

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