第1話

 その日、魔女はチークムーンとオーバーベルの通う学校がある町を人間として訪れていた。その目的はオーバーベルの成長を確認するためである。また今回の魔女の行動は、先日結んだある魔道具職人との契約が大きく関係していた。

 依頼の内容的に魔女は、魔道具開発には少なくとも2年はかかると考えた。そのためリミットとして2年という条件を設定したのである。しかし、実際にはオーバーベルの魔蓄熱まちくねつ発症はすぐそこまで迫っていた。それを引き延ばすために、ある贈り物を届けに魔女はこの町へやって来たのだ。実際には、その贈り物は魔術を必要とするためオーバーベルの夢の中で譲渡は行われる。つまり、わざわざ彼女の姿を見に足を運ぶ必要はなかったのだ。では何故こんなことになっているのか? と問われれば、それはひとえに魔女の気まぐれなのである。


 人として過ごしている今は、オーバーベルには自分が魔女であると知られるわけにはいかない。魔女との遭遇は特別なものでなくてはいけない。奇跡はそう何度も起こるものではないのである。とは言っても、数日後には夢で再び2人は遭遇するのだが。その実、奇跡などではなくこれもまた、全て彼女の気まぐれでしかなかった。



「そう……あの2人、同じ学校に進学していたのね。あら、……まったく仕方のない子ね。それに比べてチークの成長は素晴らしいわね。まぁどのみち、自分の殻も破れないようならあなた達に未来はないのだけれど」

 2人の姿を確認した魔女は、その感想を吐露した。

「さて、せっかくここまで来たんだしなにか美味しいものでも探してみようかしら。ん?」

 わずかな空腹感に食事を取ろうと考えたとき、魔女は面白そうなものを視界の端に捉える。

 学校外周に建てられている塀の隙間から密かにある少女に熱い視線を送る少年の姿を魔女は捉えた。その瞬間、魔女の胸が高鳴った。

「初恋、なのかしらね」

 今は心を除き見ることが出来ない魔女は、意気揚々と少年の元へ歩みを進めるのだった。

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