第二子出産記録

ふりおきよし

予定日より10日早く

 早朝5時半、枕元に立つ妻の気配に目を覚ます。

 一人目の時と同様の痛みがあり、陣痛が始まったという。

 間隔はすでに狭く、5分から7分ほど。

 かかりつけの産院に連絡し、指示を仰ぐ。


 『念の為検査確認をしましょう。一度来院して下さい』と言われたので、義母に長女を任せ、軽自動車のキー他、引き継ぎを済ませる。

 出血おしるしのあった一昨日、予定を早めて実家から出て来てもらっていた。


 6時過ぎに家を出、車で5分ほどの産院に到着。

 流行りの感染症の影響で、検診は妻一人で。いざ入院、出産となれば、立ち会いは可能とのことだ。


 駐車場、車中で待つこと20分。6時半、妻から連絡があり、このまま入院する事が決まったと言う。

 入院用の荷物を車から下ろし、院内へ。

 手指消毒、検温を行い、記録簿に日時、患者・面会者氏名、体温を記入し、分娩室へ。

 妻が術着に着替えており、荷物を運び込みながら検診結果を訊く。

 子宮口が既に4cm開いているらしく、このままお産する流れになったそうだ。

 着替えが済んだところで、胎児の心拍を取る機器を装着してもらい、陣痛の様子をモニタリング。


 7時半、助産師さんによると、長くなりそうとのこと。

 陣痛の間隔が散り、痛みが弱くなってしまっているため、出産までは遠退いている兆候らしく、長女のときのようなスピード出産とはならないと言う。


 8時、繰り返し訪れる陣痛の波に耐える妻の腰を叩いてやりながら、職場への連絡を済ませる。

 感染症拡大防止の観点から、産後、病室へ移動したあとは原則、母子のみとするため追い出されてしまう。その後に出社するつもりだったが、上司からは仕事に差し支えなければ休んでもいいと暖かい言葉をもらった。


 朝食が運ばれてきてので、陣痛の合間を狙って、少しずつだが口に運んでやり、食べさせていく。

 メニューはおにぎり、切り干し大根、ひじき煮、焼き鮭、温泉卵にしば漬けとオレンジ。緑茶がパックドリンクで付いてきた。

 食べている間に、痛みの間隔が狭くなり、強さも増しているようだった。

 声を上げることが増えた。


 8時半、午前の担当という助産師さんがいらっしゃったので、現状を報告。

 再度診察をしてもらうと、6cmまで広がっており、お産の準備をしてもらった。

 赤ちゃんのベッドに付ける札と、取り違え防止の識別用のタグを渡され記名する。

 お湯の準備が出来ればいつでも、というところまで済ませてあるとのこと。

 長期戦になると思われたが、突然進むのは経産婦の特徴らしい。

 「息みたくなったら呼んでください」と言い残して、一旦助産師さんは退室。

 しかしながら波を1つ2つ越えたところですぐに限界を迎え、ナースコールを押すことに。


 助産師さんが部屋に戻って9時頃、ベッドに部品が取り付けられ、分娩台に姿を変える。

 痛みのせいであまり食べられていなかった朝食も下げてもらった。

 徐々にお産は進み、Sサイズの玉子くらいに頭が見えたと教えられてからは早いもので、10分ほどで先生も喚ばれた。

 応援を喚ぶためにナースコールを押す役目を与えられ、「次の陣痛がきたら押してください」と言われるも、「赤ちゃんの向きを確認しますね~」とグリっとされたのか、声を上げる妻。

 違うとは思いつつも確認すると、「押してくださいって言いますね」と。

改善KAIZEN”が行われた瞬間だった。

 先生が到着されてから、陣痛に合わせて息むこと数回。


 破水から約20分、産声が誕生を知らせた。

 口腔に残る羊水が吸引され、気道が確保されたことで元気な声に変わる。


 先生の指導の下、ハサミを受け取り、臍の緒を切る。生まれた子の父親として、初めての仕事だ。

 「頑張っているのがわかんねぇのかッ!」とお叱りの言葉を頂くことになるかもしれないので、「頑張れ!」と声を掛けるのは愚の骨頂。

 空調の利いた分娩室では、汗を拭いてやることもなく、分娩台が設置されてからは夫としては無力だった。


 妻は後産と産後の施術をし、分娩台もベッドに復旧。

赤ちゃんは産湯に入れてもらい、各種測定を済ませて新しい産着に身を包み、母親の元へ。


 1時間ほど時間を置いて10時半、ベビーセンターから母親のいる個室まで、院内での移動にも利用されるベビーベッドに移される。

 妻は出血が落ち着かず、患部の再確認を経て更に養生。


 産後2時間が経ったところで、赤ちゃんはベビーセンター移され、妻に状態を訊いた助産師さんから着替えの準備を指示される。


 12時に昼食が届くも、食べる余裕はなく、半になったところで容態も落ち着き、個室へ移動する事に。

 昼食はそのまま個室へと持って行ってもらい、移動後に摂ることに。

 妻は着替えを済ませて移動のため、用意された車椅子に座り、助産師さんに押してもらう。


 エレベーターに乗る妻を見送り、産院を後にする。道中にあるベビーセンターではすぐに我が子を見付けることが出来た。

 5日後の退院が待ち遠しい。


 2020年7月13日、9時16分。

 この世に一つの命が誕生し、母親似の女の子が家族に加わった。

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