第45話 監視の目はどこにでも

歩き出してからそれなりに時間が経った。事前にファイネが感知したりリガードが見たりしていた結果通り、何も問題なく道を進んでいる。


あたしはというとついていきながら魔力操作の練習に戻っていた。

というのも何か魔力に関する行動を起こそうとするとファイネが感づくのだ。一度魔力をほんの少しだけ放出した瞬間、バッと振り向いて睨みつけられたからそれ以降は何もしないでいる。


けれど外部に魔力を出さなければファイネは気づかないらしいので、結果的に練習していた足や腕のの魔力強化の練習をすることになってしまった。


本音を言うなら魔力放出や、何より忘れていた魔力感知の練習がしたい。習得して周囲に何があるのか知りたいし、魔力浸透という誰かさんがやっていた魔力操作技術も試してみたい。


だがどれも監視みたいな目がある以上難しそうだ。どうやら考えていた以上に「ドワーフ」というのは影響が大きかったらしい。


ただおかげで継続して移動するときの魔力操作の運用には上手くできるようになった。町に来るまでの移動はトライアスロンみたいに魔力をかなり使い過ぎている運用だったけれど、省エネでずっと走るって運用はしてなかった。

それができるようになったっていうのは一つ前進したと言えるだろう。


「もう少しで半分だ。そこで休憩しよう」


ダイダクの言葉に全員が頷く。いくら軽微な魔力の運用でも消費していることに変わりはない。5人に比べれば膨大な魔力を持つルミナだけは疲れた様子を見せないが、彼ら自身が持つ内部魔力は4割は使用されていた。

つまりはどこかで休憩を挟む必要があったのだ。しかしルミナはそんなこと知る由もなく。


「え、もう?」


ついつい言葉に出してしまう。

その言葉に睨むように5人は目を向ける。当然といえば当然である。息を切らしているのが普通なほど歩いているが、その中に体力馬鹿がいて「これくらい平気だよね?」と言ったらキレたくなるのと同じことだ。


しかもルミナはドワーフ基準で考えるため、魔力総量が高いことを前提に行動する。だが亜人はそうではない。故にすれ違いが起きていた。


剣呑な雰囲気が漂っていた数分後、一行は休憩に入った。内部魔力を半分ほど使っていたため相当に疲れていたらしく、言葉が少なめになっていた。


「はぁ……ファイネ。ここから先は?」

「大丈夫、みたい」

「こっちもだ」

「気配もしないかなー…」


各々が索敵を終え、最低限の言葉だけで伝え合う。

彼らを見ているルミナだが、言葉は出さない。ファイネが動かない今なら魔力感知の練習ができはするが、勘づかれて何か言われるのは面倒だ。


誰かと話したいのは間違いじゃなかったけど……、こういうのは違うかなぁ。あたしについて追及されるだけ、なんてのはやりたいことじゃない。もっとこう和気あいあいとしたような感じの方だ。


「町に行ってからかな。仕方ないか」

「……飯の話か?。ドレの町についたら俺たち含めてバイラジがたらふく食わせてくれるだろうよ」

「はは……お手柔らかに」


あたしの口に挟むようなことはできる程度の疲れよう。ならまだあたしが何か行動を起こすべきじゃない。町に着くまで何かしようとは思わないけど、何かするなら疲れ切ってあたし以外が誰も行動できない時だ。そこまでは辛抱しよう。


「時間も悪くない。この調子で進むぞ」

「こないだ悪月は来たばかりだし…突発的に魔物が来ることもないはず」

「悪月?」

「知らないのか?。……ああ、言葉が違うのか、夜の月の色が変わる時……次の日まで魔物が凶暴化するときのことだ」

「ああ、それね」


ドワーフだとあて月とか言われている日のことだ。解明されている現象であり、月の色が変わることで魔物の体内感覚が一時的に狂い、魔力を多大に消費して生き延びようとするというものだ。

災害獣には効き目無いことが分かってるからドワーフからしたら脅威的にはあんまりない。が、彼らからすればそれも十分に脅威だということだろう。


さて、あんまりおんぶにだっこだと何もしなさ過ぎて暇だし少しだけ役に立つことにしよう。


「じゃあ……これで。町の方向は?」

「?、あっちだ」


リガードが指さした方向に顔を向ける。そして目に魔力を集中させ視力を強化する。さらに魔力視を使うことで視界内の魔力を持っている生命体を特定する。

遠視でギリギリ何か建造物的な物が見えるからそこだろう。そこまでの道には……魔物をいないが、ところどころで道を外れると何かいるのは見えた。


「うん。道を外れなければ大丈夫だね」

「……見たのね」

「うん?。そうだけど、何で分かったの?」

「魔力があんな量動けば誰だって分かるだろう」


魔力操作が上手いファイネとリガードは察していたようだが、ダイダクとエシータは頭にはてなマークを浮かべたままだ。誰だっては分からないが、多少分かる程度なら誰でも分かるようなレベルだということだろう。


魔力総量が多い人たちはどうしてるんだろう?。あんまり強い魔力操作じゃなかったのにこんなに気付かれるとなると……よっぽど隠すのが上手いのかな?


「まぁどんな形であれ索敵が増えるのは助かる。問題がないなら先に行くとするぞ」

「休憩は終わりね。行きましょうか。リガード、余裕があるなら粉を使ってほしいのだけれど」

「あんまりないな。余裕を持った方が良いからやめて方が無難だろう」

「ならいいわ。エシータ、行くわよ」

「もう少しだけ……ダメ?」

「ダメ。行くわよ」


ファイネがエシータを叱り、無理やりに立たせる。だがそこに無理強いはない。信頼関係が無ければできない行為だろう。

あたしにはそういうことができる人は……いるはず。だけど思い出せない。これもどこかのあたしが持っているのだろうか?。そうなら奪いにいかないといけない。


けれど今のあたしでは力不足もいいとこだ。自分自身に振り回されているのでは奪う前にあたしが奪われるかもしれない。それだけはダメだ。


「一つずつ進める、かな。よし、それじゃ行こっか」


立ち上がって準備を終えたダイダク達の方へと近づいていく。他の全員も休息は十分にとれており準備はできているようだ。

ルミナは装備品しかそもそも持っていない。準備する必要はなかった。

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