第44話 徹夜明けの朝
魔物の襲撃はなかったらしく、無事翌朝となった。ダイダクとファイネは徹夜であるため眠そうだがどうするのだろうか?。
馬車があれば中で眠るという手段がとれるが、それがないとなると…強行軍か?
「ふわぁ…リガード、頼む」
「こっちにもお願い」
「分かった」
二人がリガードに何か頼んでいる。のぞき見になるが魔力視してリガードの動きを観察することにする。
リガードは魔力を操作して羽に魔力を集中させる。本来なら両翼にする操作なのだろう、それが片翼だけになっておりかなりの魔力量だ。
「ほらよ」
「助かる」
「ありがと」
羽から魔力が含まれた鱗粉が放出され、二人にかかる。かかった粉は二人の中に吸収され、生命力を活性化させた。
この現象は知識だけがある。フェアリーでも魔力操作が上手い個体でないと効果があまり発揮されないというものだ。名前は確か―
「―フェアリーの粉ってやつ?」
「知ってるのか?。流石ドワーフだな」
「知識だけだけどね」
「十分だろう。フェアリーでも知らない方が多いくらいのものだ」
「リガードのこれが楽なんだ。寝なくても生命力が回復できる、数日の移動の時はかなり助かるんだ」
「他のやつらはこれの薬みたいなの飲んでるけど、あれ苦いって話だからねー…」
「ははは、下手なフェアリーの粉は碌なもんじゃないからな。性能も低ければ苦い味もする。半年も集中してやればできるようになるもんだが、しないからな」
「半年…?。あた…いや、そんなにかかるんだ」
あたしが手伝えば十日もかからないと言いそうになったが堪える。魔力操作は極めればとんでもない汎用性を誇る。手を繋いで相手の魔力を操るなんてことも可能になるだろう。魔力感知を思い出した今なら十日もあればその域まで辿り着ける。
まぁそれはそれとして、寝ないで行動するのが基本か。旅しながらっていうのとはまた別の話だからそうなるのだろう。あたしが旅してたときは襲われそうになったら逃げるって感じだったし。
ルミナは知らないが、魔物の襲撃を感知するのは高度な魔力感知技術があってこそである。それはドワーフの正規軍クラスでなければ不可能な技術であり、亜人とは比べるべくもない。ルミナ本人はまだできていないが、ゼルの魔術技能補正能力によって多少はできていた。
「ところでルミナ殿。昨日の魔石の件なのですがな」
そんなことを考えているとバイラジから声がかかった。昨日ゼルで叩いた魔石の価値がかなり高いものであり、お礼がしたいとのこと。
あれ…そんなにいいかなぁ?。あたしには昨日のグレイオーガの魔石がある。ゼルの威力で破壊されて4つに割れてこそいるものの昨日の借りた魔石よりも大きい。これに昨日のと同じことをすれば同じ作用が働くだろう。
「あれはあたしもできるか分からなかったからいらない。それにあたしは魔石手に入れるのそんなに苦労しないし」
「ですが余りにも価値が高すぎます」
「えー…ホントにいらないんだけどなぁ…」
「ホントにいらなさそうだな。…それじゃあ町についてからルミナの宿やら飯やら奢るってのはどうだ?」
困り顔のあたしを見てダイダクが助け船を出してくれた。今一瞬の感覚で答えていたけど、よくよく考えたらそうだった。町に入ってからの行動なんて特に考えてなかったし。
「あ、じゃあそれでお願い」
「軽いな、おい」
「そんなのでよければ構いませんが…本当によろしいので?」
「いいってば」
バイラジがしつこいからこっから先の返礼は突っぱねることにする。あたしの目的からしてどうせ街中なら酒場とか飯屋とかがメインになるはずだ。その辺の道案内とかしてくれるならあるにこしたことはない。
ルミナが聞く耳もたないと見たバイラジはそこで会話を止めた。バイラジも商人の端くれであり、交渉を終わらせるべきかどうかの感覚は有していた。
「真っ直ぐ行けそうね。これなら今日の夜には着くと思うわ」
ファイネが探索を終える。彼女は魔力を探知する魔術でドレの町に行くいくつかのルートの安全性を探っていた。さらにリガードやエシータからも問題がないと声があがる。
「魔力自体があまり見えんな。これなら問題はなさそうだ」
「こっちも問題なし」
「よし、なら少し急いで行くか。少し急げば夕方には着くだろう?」
「ええ、宿をとるのは無理だから小屋になりそうだけど」
「構わねぇよ。町の外にいるよかずっとマシだ」
全員が歩き出す。ファイネとダイダクが先頭に、バイラジが続きあたしとリガード、最後尾にエシータが。
そして彼らの足には魔力強化が乗っているのが視えた。効率的とは言えないが、継続性という意味では悪くないと言えるだろう。
普通の人間なら息が上がらない程度に早歩きするくらいの速さだ。それをずっと続ける。これで一日中歩くのならそれなりの距離移動ができるだろう。
ただ既に足に魔力強化できるようになったあたしからすれば遅すぎるもいいとこだが。
「…でも丁度いいかな?。速度を合わせるってやってないし」
「ん?何か言ったか?」
前を歩くリガードが言葉を拾ってしまった。話すつもりはないと伝える。
「ただの独り言。気にしなくていいよ」
「ドワーフの独り言なんて珍しいから聞き逃したくないんだが」
「いいから」
「でも」
「リガード、止めといた方がいいよー。まだ移動始めたばっかり、休憩中にでも聞けばいいんじゃない?」
後ろにいたエシータが止めに入った。
何かこのパーティの様相が見えてきた。暴走するリガードとダイダクをファイネとエシータが止める形か。とはいえ暴走することもそうそう無さそうにも見えるから…あたしがドワーフだからか。
温厚な希少種族なんて好奇心が抑えられないのは当然だろう。そう考えるとこの環境を享受するのも致し方無いと思える。
「む、それもそうか。すまないな、ルミナ」
「あんまり女性の言葉に耳を傾けると腐り落ちるから気を付けた方がいいんじゃない?」
「そうだそうだー」
「腐り…!?。分かった。善処しよう」
エシータがノリが良くて助かった。しかしあたしのこんな一言でも興味が尽きないともなるとそうそう言葉に出すことも難しくなってしまう。何か考えなきゃいけなさそうだ。
とは言っても誰かさんの知識であってもそんな知識が都合よく出てくるはずもなく、
「…思い出した感知のやつだけ練習しよう」
そう口にするルミナだった。
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