第28話 危機を告げる神器
圭介は気が付けば白い光の中にいた。
「ここは?。……息ができる!?」
言葉に出してから気づく。さっきまで息ができない上に身体が鉛のように重かったのに、ここではそんなことは全くない。
視界が全て真っ白に埋め尽くされており、何かが見える気配も全くない。
別の場所に移動したのだろうか?。空気が肌に触れる感覚がさっきまでとはまるで違う。服を着た水の中から抜け出して、春一番の季節になったみたいだ。
(気が付いたか)
「っ誰だ!?」
頭の中に何かの声が響いた。
耳から聞こえた感じじゃない。意識に直接ぶつけるような、瑠美たちと喋るときと全然違う気味の悪い感覚だ。
真っ白だった視界に徐々に影が現れていく。クリアになった視界には腕輪が一つ、空中に浮かんでいた。
(誰……そうだな。まず私はお前の知識で言うところの生き物ではない)
「生き物てか腕輪だしな。俺の知識?。何を言ってるのかさっぱりだ」
(……それでいい。知りたいことは魔力を通じてくれてやる)
「魔力?何だそれは?話が通じてる気もしないが」
(だがここで今伝えねばならないことが二つある)
さっきから話が通じていない。俺のためになることを話してくれているつもりなのかもしれないが、あまりにも怪し過ぎて信用する気にもならない。
(一つ。ここにいたこと、ここで話したことは瑠美以外の誰にも伝えてはならない。)
「待て。瑠美だと?。瑠美に何かしたのか!?」
こいつは話を聞く気もないだろうが、叫ばずにはいられなかった。
なぜこいつが瑠美のことをどうやって知ったのかそんなことはどうでもいい。だが瑠美を知って、何かしたのかしようとしているのか、それ次第だ。
(二つ、瑠美のことを想い続けろ。)
「はっ?」
想像の斜め上の台詞に怒りに囚われかけた思考が完全にストップする。
俺と瑠美は幼馴染だし友達と言える関係だ。想い合うというのもある意味では間違っていない。
だが聞こえた声はまるで恋人同士のような―否、夫婦ともいうべき関係性を意味しているようにしか聞こえなかった。
「俺と瑠美はそんな関係じゃない」
やはり俺の言葉なんぞ知ったことではないと言わんばかりに腕輪は話を続ける。
(危険などというにはあまりにも……、一度や二度の死でさえもまだほど遠い。それほどに塗り潰される恐れがある)
「さっきからよく分からんことばっかりいいやがって……どういうことだよ!おい!」
(お前の中から瑠美が消える。それだけは避けねばならん)
「俺の中から瑠美が?。……忘れるってことか?。あるわけないだろ!」
ようやく意思疎通ができたかと思えばありもしないことをほざきやがった。
俺が瑠美を忘れるなんてことがあり得るわけがない。十年以上も近くにいたんだ、そんな人を忘れるなんて、自身の記憶がぶっ壊れるも同然のことでもない限りあり得ないだろう。
(想い続けろ。ただただ瑠美のことだけを。死せども絶対に忘れぬと、絶対にお前と一緒になると)
「随分と重いな」
(例え世界が自分一人になっても見つけ出すと、自身の身体が滅びようと隣にいると)
「……あんた。俺たちのことを心配してくれてんだな」
返事はない。けれど、これだけ念押しするような言い方が既に言いたいことは言ったと語っている。さっきからこいつが言っていることは瑠美のことを想い続けろ、それだけだ。さっき倒れたところに瑠美がもしいたら、なんて考えると心配してくれることは馬鹿にできない。
怪しい腕輪だと思っていたが、存外いい腕輪?なのかもしれない。
「俺のことか、瑠美のことか、どっちが大事か分からないけど……あんたはそう思ってくれてるとみていいのかな?」
(時間切れか)
「うっ!?」
急激に身体が重くなる。だがさっきのところにいた時みたいな鉛のような重さではない。
疲労が溜まってベッドから身体が起き上がれないときみたいな、どこか心地いい感覚。それも今までの人生で味わったことのないレベルのそれ。
睡魔が襲ってくる。俺の眠ってはダメだという抵抗も小さな波が大きい波にさらわれるように消えていく。
「瑠美……。る……み……ぅ…ぃ」
そのまま、俺の意識は再び暗闇に落ちていった。
そして意識が消える直前、残響のように残った声が一つ。
(かつての俺が力になろう)
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