今日の、ポメ

 吾輩は、ポメである。

 ポメだと言ったらポメだ。うるさい。

 今日は非常にいい天気である。

 お外で、遊びたい。

「何で仕事なんだろうなー。畜生」

 吾輩は、地面に落ちている小石を蹴り上げた。

 よく飛んだ。嬉しい。

 そんなこんなで、仕事場である編集室へ辿り着いてしまった。

「おはようございまーす」

 ヘラヘラと吾輩は挨拶する。

「……おお、相変わらずの不機嫌さだな。おはよう」

 今話しかけてきたのは、編集長だ。

 結構、偉い。

「だって、お外こんなにいい天気なのに……」

 吾輩は、ムスッと膨れる。

「まあまあ、お、そうだ、今日はこんなお菓子を買ってきたぞ……」

 編集長は、自分のデスクへと戻っていった。戻る際に、目に付く社員には「仕事は順調か」「まだやってるのか」と厳しめの言葉を飛ばす。

 ……本当は、かなり厳しい人なのだが。

 ……吾輩には、甘い。

「ああ!」

 編集長は、今までに聞いたこともないレベルのどでかい声を一発かました。

「ど、どうしたんですか!」

 吾輩は思わず驚き駆け寄ってしまう。

「せっかく買ってきた高級ロールケーキのお土産が……」

 ……な、なんだって!?

「……盗まれたのですか」

 そう声を掛けてきたのは斉藤。こいつはうるさい。

「よう斉藤。お前、食ったんじゃないのか」

 吾輩は、斉藤に食ってかかる。

「俺じゃねーよ、お前みたいに見境なく食べるかっつーの」

「何だと! 吾輩は落ちてるもの何でも食べちゃう子どもじゃねーんだぞ!」

 ムキームキーと喧嘩をしていると、編集長が止めに入った。

「ポメ、俺が目を離したのが悪かった。だから、斉藤と喧嘩するな。許せ」

 ……編集長にそこまで言われたら、仕方ないな。

 斉藤との喧嘩を止めると、ふと近くのデスクに厚紙のような何かが置かれていることに気が付いた。

「何だこれは」

 吾輩は、手に取ってみる。そこには、黒いマジックペンのようなもので文字が書かれていた。


 はっはっは

 うまかったぞ

 じゃあの


 ふっふー


 ……なんやねん。

「なんやねん」

 斉藤とおんなじことを思ってしまった。恥ずかしい。

「この、ふっふーってのは、何だ?」

 吾輩が物珍しそうに、ふっふーの名を口にすると……。

「ふっふー……?」

 編集長が反応した。

「何か知っているのですか」

 吾輩は、今年一番真面目そうな顔をした。次は来年だ。

「ああ、昔、都市伝説のようなものを……」

 何だそれ。吾輩は、聞いたことがないぞ。

「お菓子泥棒ふっふー」

 ……ぷ。ぷはははは。

 ふっふーって、何だよ。

 名前か? 名前なのか?

 だっさー。

 ワロチワロチ。

「とにかく、ポメ、悪いが仕事に入ってくれ。今日はあれだ、ニシキヘビVSアナコンダの特集記事を書いてくれ」

「ほえー」

 ここは動物にまつわる面白記事を書く部署である。

 一応、吾輩はこの部署に配属されてまだ三か月のド新人。

 年齢は二十一歳。これでも立派な成人男性だ。

 ……すっかり犬扱いされるけど。

 たぶん吾輩の、この性格がよくないのだろう。

 わっはっは。

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