第8話

「……実は僕の前職は魔導騎士団の騎士でね。ちょっと色々行き違いがあって、未だに昔の同僚達とは仲があまり良くないんだ。」

苦笑いを浮かべ、頭を掻きながらラボスが話し出した。


「さっきの店で言い合いをしていたのはその魔導騎士団の参謀役をしているサーシャという奴なんだけど、どうも昔から僕とは相性っていうのかな、そいつがあまり良くなくてね。何かにつけて僕を目の敵にしてくるのさ。」


「……そうだったんですね。それは大変ですね。」とは言いつつも、さっきの男が言っていた「人殺し」という言葉が俺の脳裏をぎる。


「……やっぱり気になるよね。あいつが「人殺し」って僕を罵ったのは、さっきホワイトラグーンっていう飛空挺があったのを覚えてるかい?あれの試運転を団長に僕が任されたんだけど、不幸なことに事故で死人が出てしまってね。それを全部僕が悪いって思っているのさ、あいつは。」

一瞬、ラボスの顔に暗い影が射す。


……思いの外ヘビーな話になってきた。やっと辛い人生におさらば出来たかと思ったらいつの間にか異世界に飛んでいてパニックになりそうな俺にはいささか厳しいものがある。


「…まぁ、暗い話はこの位にして、今日は取り敢えずこの街で一泊しよう。」

とこちらに気を使っているのだろう、わざとらしく明るい笑顔を振り撒きながらラボスが締めた。


    ◆  ◆  ◆  ◆


「サーシャ様。飛空挺のメンテナンスが全て終わりました。いつでも出発できます。」

白いローブ姿の男が先程ラボスと言い争っていた癖っ毛の男の前にひざまづいて報告する。

「……わかった。下がれ。」

「ハッ!!」と応え男は部屋を去った。


「ラボスめ……。目障りな奴だ……。まぁ、しかしこれで次期団長の座は私の物だ。そうなれば今さらあやつが何かしたとしてもこのサーシャ様の敵ではないわ。ククククク……。」

不気味な笑みを浮かべるとサーシャは右手に持ったグラスを口元へと運んだ……。


    ◆  ◆  ◆  ◆



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