Nameless Hero~名も無き正義が悪を裁く~

牛☆大権現

第1話~謎の焼死体篇~前半

 ヒトとは、いかなる生物を指すのだろうか?


 容姿、遺伝子、 文明、知性。

 万人が、あらゆる定義を主張するだろう。


 しかしそれらの定義は、どれも揺らげば崩壊する、砂上さじょう楼閣ろうかくに過ぎないのだ。


 恐竜人、という仮説がある。

 恐竜が今日まで生き延びていれば、我々のような知性と文明を獲得していたであろう。

 そういう説だ。


 仮に彼らがもしも、自らの事を"ヒト"という発音や文字で呼称していたなら?

我々の方が哺乳人類、と呼ばれる仮説になっていたのかもしれないのだ。


 ここまでの話は、"IF"__もしも、という仮定でしか無い。

 だが、この地球には存在する。

 

容姿、文明、知性。

 あらゆる点で人間と似通った共通点を持つ、異なった種族が。



 彼らは、"雷人らいじん"と呼ばれている。

 雷人らいじんが我々と違う点、それは。

 ほんの僅かな遺伝子、そして発電能力を保有するという二点だけなのだ。


 我々は、彼らをヒトとして受け入れられるのだろうか?

 同じ人の中でさえ、差別し争い合う我々が__


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酒巻さかまき警部!

 司法解剖の結果が出ました!!」


 俺は、新人警官としてこの街に配属された柏木かしぎ警部補だ。

子供の頃からヒーローに憧れ、晴れて……という言い方は、被害者に失礼に当たるだろうか?

とにかく、警察官になる事が出来た。


初めての仕事だ。

気を引き締めて、取り掛からないと。


「感電死だそうです。

 でもおかしいですね、昨日は晴れてたのに 」


俺は、経験豊富な上司、酒巻警部に報告した。

酒巻警部は、過去難事件を幾つも解決した敏腕警部だ。


酒巻警部は、過去に幾つもの難事件を解決した敏腕警部で、特に犯人の追跡において驚異的な洞察力を見せてきた。


俺が警察官になったのは、子供の頃からずっと憧れていたからだ。

特に、あの酒巻警部のように、事件を次々と解決していく姿に心を動かされたからだ。


出世の話も幾度もあったのに、現場にこだわり続け昇進を拒んだ程だとか。

俺も、この人の手腕を見習って事件を解決出来るようにならないと。


 死体のあった場所には、白いチョークで人の形が取られ、まだその上に黒く焦げた痕跡が残っていた。

 空気は重く、あたりには肉が焼ける匂いが漂っている。


 慣れないその匂いが鼻を突く。

この先、こういう自体に慣れてしまう日が来るのだろうか?

それが今の俺には、少しだけ怖かった。


「柏木、今何時だ? 」


 酒巻警部が、俺に顔を向ける。


「今っすか、午前……2時?

 太陽昇ってんだぞ、壊れてんのかなあ 」


 俺は、軽く時計を小突く。

買ったばかりの時計が壊れるとも思えなかったが、おかしな時間を指し示しているのは事実だ。

 酒巻さかまき警部は、重々しく俺に告げる。


「やはりな。

 このヤマ、ガイシャは落雷による感電死。

 書類には、そう書いとけ 」


 警部は、カバンを持ち上げて、署に戻る準備を整えている。


「ふざけないでください!

 まだちゃんと検証もしないうちから、決め付けて動くなんて…… 」


先入観に囚われて動いてはならないのは、警察官として必要な資質。

俺はそう、酒巻警部その人から教わった。


「仕方ねぇな……

柏木警部補、この後ちょっと付き合え。」


 警部は、どこかに電話をかける。


「俺だ。

 新人を研修に連れてくから、向こうさんにそう伝えてくれ」

 

 車で60分、徒歩で更に20分

 酒巻警部が俺を連れてきたのは、人里離れた谷合。

蛇目池じゃのめがいけ』、地元でそう呼ばれる池の付近だ。


「お前達、そこから動くな」


 俺達に声を掛けたのは、2人の少年。


 一人は、縦に白いストライプの入った黒いズボン、腕の部位だけ黒く胴体が白いシャツ。

 もう一人は、茶色のズボンに、灰色のシャツ。


 どちらも運動靴であり、髪は短く刈り揃えられていた。


「あの2人の警告通り、動くんじゃねぇ

動いたら殺られる、そう思え」


酒巻警部が、緊張したような声で俺に語りかける。


「こんな年端も行かない少年達が、現役警官2人を殺す?

冗談がキツイですよ、酒巻警部

 そもそも君達、幾つだね? 」


 2人の少年は、上を向いて思案する。


「俺は11歳、正一ちゃんは12歳だよな 」


「そうそう。

 確か権ちゃんは、もうすぐ誕生日だったよ 」


 年齢を聞いた俺は、警部の肩をガシッと掴む。


「俺をからかうために、わざわざ連れてきたんですか?

 中学生二人を、こんな場所に用意して? 」


「柏木くん、1つ誤解がある。

 彼らは人間ではない、故に義務教育の対象では無い 」


「失望しました。

 尊敬してたあなたから、そんな差別的な発言が出るなんて! 」


 俺は、酒巻警部が解決した数々の難事件のファイルを、警部補になってから読んでいる。

 憧れのヒーローそのものだった、それだけに失望は大きかった。

 俺は激昂げきこうし、酒巻警部に殴りかかろうとする。

 

「動くなって言ったよな?

次、俺達の断り無く動いたら、当てるぞ?」


 凄まじい轟音と、激しい光があった。

 気が付くと、俺の側の地面が抉れ、草が焼け焦げていた。

 まるで、すぐ側に落雷があったかのように。


「すみません、ごんちゃんは血の気の多い子で

でも、悪い子じゃ無いんです」


 俺は、地面と少年2人を交互を見る。


「今、何が起きた……? 」


「見て分からねぇのか?

今朝のガイシャと今の現象、まだ結びつかねぇか?」


 酒巻警部が、説明をする。

 

「この2人が今朝のガイシャを殺した犯人ですか?

そもそも、今の現象はどんな凶器を使えば起こせるんですか!」


「まだ分からねぇのか、武器なんてもの持っちゃいねぇよ

 お前ら下等種族と俺達は、出来が違うのさ! 」


 そこに割り入る、自信じしんに満ちたその場にいなかったはずの、第三者の声……(続)

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