Nameless Hero~名も無き正義が悪を裁く~

牛☆大権現

第1話~謎の焼死体篇~前半

 ヒトとは、いかなる生物を指すのだろうか?


 容姿、遺伝子、 文明、知性。

 万人が、あらゆる定義を主張するだろう。


 しかしそれらの定義は、どれも揺らげば崩壊する、砂上さじょう楼閣ろうかくに過ぎないのだ。


 恐竜人、という仮説がある。

 恐竜が今日まで生き延びていれば、我々のような知性と文明を獲得していたであろう。

 そういう説だ。


 仮に彼らがもしも、自らの事を"ヒト"という発音や文字で呼称していたなら?

我々の方が哺乳人類、と呼ばれる仮説になっていたのかもしれないのだ。


 ここまでの話は、"IF"__もしも、という仮定でしか無い。

 だが、この地球には存在する。

 

容姿、文明、知性。

 あらゆる点で人間と似通った共通点を持つ、異なった種族が。



 彼らは、"雷人らいじん"と呼ばれている。

 雷人らいじんが我々と違う点、それは。

 ほんの僅かな遺伝子、そして発電能力を保有するという二点だけなのだ。


 我々は、彼らをヒトとして受け入れられるのだろうか?

 同じ人の中でさえ、差別し争い合う我々が__



酒巻さかまき警部!

 司法解剖の結果が出ました!!」


 若い警察官が、殺人事件の現場に駆けつけてくる。


「感電死だそうです。

 でもおかしいですね、昨日は晴れてたのに 」


 チョークで、人の形が取られている。

 死体は既に片付けられている。

 だが、肉の焦げた匂いが今も残っている。


「柏木、今何時だ? 」


 酒巻警部が、若い警察官__柏木に顔を向ける。


「今っすか、午前……2時?

 太陽昇ってんだぞ、壊れてんのかなあ 」


 柏木が、軽く時計を小突く。

 酒巻さかまき警部は、重々しく柏木に告げる。


「やはりな。

 このヤマ、ガイシャは落雷による感電死。

 書類には、そう書いとけ 」


 警部は、カバンを持ち上げて、署に戻る準備を整えている。


「ふざけないでください!

 まだちゃんと検証もしないうちから、決め付けて動くなんて…… 」


「仕方ねぇな、この後ちょっと付き合え。

 お前には、見せとくべき物がある 」


 警部は、どこかに電話をかける。


「俺だ。

 このヤマ、丸雷案件だ。

 新人を研修に連れてくから、向こうさんにそう伝えてくれ」


 警部が、柏木を連れていった場所。

 それは、人里離れた谷合。

蛇目池じゃのめがいけ』、地元でそう呼ばれる池の付近。


「あんた達が、見学に来るって言う警察官か? 」


 警部達に声を掛けたのは、2人の少年。


 一人は、縦に白いストライプの入った黒いズボン、腕の部位だけ黒く胴体が白いシャツ。

 もう一人は、茶色のズボンに、灰色のシャツ。


 どちらも運動靴であり、髪は短く刈り揃えられている。


「紹介しよう、彼らはごんくんと正一しょういちくん。

 今回のヤマの犯人は、彼らが処理してくれる 」


 警部に紹介された二人は、柏木に軽く礼をする。

 黒いズボンの少年が権、茶色のズボンが正一というようだ。


「こんな年端も行かない少年達が、殺人犯の逮捕……

 何の冗談ですか?

 そもそも君達、幾つだね? 」


 権と正一は、上を向いて思案する。


「俺は11歳、正ちゃんは12歳だよな 」


「そうそう。

 確か権ちゃんは、もうすぐ誕生日だったよ 」


 年齢を聞いた柏木は、警部の肩をガシッと掴む。


「俺をからかうために、わざわざ連れてきたんですか?

 中学生二人を、こんな場所に? 」


「柏木くん、1つ誤解がある。

 彼らは人間ではない、故に義務教育の対象では無い 」


「失望しました。

 尊敬してたあなたから、そんな差別的な発言が出るなんて! 」


 柏木は激昂げきこうし、警部に殴りかかろうとする。

 けれども、その腕は背後から、掴み止められる。


「落ち着いて、まずは僕達の話を聞いてください 」


 正一の握力は凄まじく、手首から先の感触が失せていく。

 苦痛にうめきを上げる柏木、正一は慌てて手を離す。


「すみません、咄嗟の事で加減が出来ませんでした 」


 柏木は、信じられないような目で、正一

 を見る。

 そして自分の拳を何度も開閉して、感覚を確かめている。


「子供なのに、何だ今の力……? 」


「彼らは"雷人らいじん"

 人間に似た姿をしているが、別の種族らしい 」


 警部が、説明をする。


「そういうことだ

 お前ら下等種族とは、出来が違うのさ! 」


 そこに割り入る、自信じしんに満ちた声……(続)

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