第23話

「全員警戒しろっっ!!奴はまた本拠地内部に戻って来ているかもしれんっ!!」


シンが周りの騎士達に声をかける。


ナビスが正体を現し窓から外へ逃げ去ってから1時間余りが経っていた。


今の所は何事もないがゲリラ戦が得意なナビスの事だ。いつまた騎士の一人に化けて襲いかかってくるか分かったものではない。


「……これに頼るのは少々癪だがこの際仕方あるまい……。」


そう言ってシンは黒い甲冑の胴回りに括り付けた布の袋の中から魔術研究所の手による金属製のメーターのついた探知機を取り出した。


ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。


円形のその機械からは絶えず小さな電子音がしている。その表示を見たシンは


「……とりあえずこの辺りにはいないようだな。

よし!向こう側に回るぞ!」


と騎士達に命令して今いる通路とは真逆の方向へ走っていく。



一方シンと別れたキィールは


千里眼レビング・アイズ!」


と呪文を唱えナビスがどこに行ったのかを探っていた。


キィールの瞳は淡い青の光に満たされ魔導騎士団本拠地の複数の場所が俯瞰で映し出される。


「……ふぅむ……。奴め一体どこに行きおった?まさかそのまま逃げ出したとも思えんが……。」


呟きながらキィールが監視していると一人の騎士がフラフラとした足取りでキィールと数人の騎士達のいるこの会議室にやって来るのが見えた。


「……ん?こやつは何でこんな千鳥足なのじゃ?まさかこのタイミングで酒をかっ食らったわけでもあるまいに。……全員警戒するんじゃ!!」


キィールの言葉に周りの騎士達はいつでも魔法を繰り出せるように身構える。


カッ……カッ……カッ……カッ……。


廊下から足跡が少しずつ近付いてきて会議室の扉をコツンと一つノックした。


騎士の一人が周りの騎士達に目配せしてソーッと扉を中へ開く。


「…………………………………!!」


扉を開けるとそこには全身から血を噴き出して息も絶え絶えの騎士がおり壁に寄りかかって


「……グブッ!……キ、キィール様。ナ、ナビスめにやられました!……奴は、広間の方へ……。」


と言ったきり動かなくなる。


「……クッッ!!やはり奴はまだこの本拠地内に潜んでおったか!……広間の方へ行ったと言っておったの……。……者共、広間へと急ぐぞ!!」


そしてキィール達は会議室を出て広間へと走っていった。



    ◆  ◆  ◆  ◆



俺達は謎のモンスターと遭遇した後襲われていた商人の一団を引き連れ橋を渡り一路クリガ目指して街道を進んでいた。


「へぇー。あなた様方は魔導騎士団の方々だったんですか。どうりでお強い訳で……。」


感服したように髭を生やして茶色い横長の帽子を被った一団のリーダー格の男ミルドがリルに言った。 


「まあな!わしらにかかればその辺のモンスターごとき敵にはならん!何なら魔王軍四天王でも何とかしてやるわい!!」


とまた調子の良いことをリルがふんぞり返ってドヤ顔交じりに喋っている。


……俺リルさんがモンスターと戦ってるとこまだ見たことないんすけど。……本当コイツは一度誰かがお灸を据えてやった方が本人の為にもいいのではないだろうか。


そんなことを考えていると頭上から


「グェヘヘヘ……。ならやってもらおうじゃないのお嬢ちゃん!」


と声がした。


俺たちが上を見上げるとそこには炎を纏った体長数十mはありそうな巨大な黒いジャガーが背中から生えた大きなワシのような翼を羽ばたかせて頭上の空を飛んでいた。


「おいっっ!!お前が余計なこと言うから変な奴が出てきちゃっただろっっ!?どうすんだよっっ!?」


俺がそう言ってリルの方を見ると奴はちゃっかりマリスの背に隠れてやがる。


「おい小僧!!誰が変なの、だ?」


口から炎を吐きながら黒いジャガーがおれを睨んで言った。


マリスの背中からヒョコッと顔を出して

「行けっ!!カイトっ!!」

と無責任にリルが命令する(こんな時でもコイツ他人に偉そうなのな)。


「いやいやいや!あんな空中を飛んでるような奴にどうやって攻撃しろっつーの!?」


俺がそう返すとそれまで気づいてなかったのだろう、リルの顔がサーっと青ざめる。


その前でマリスがボソボソと皆に説明する。


「……奴は確か魔王軍四天王が一体爆炎のクエイン……。……非常に素早く火炎を吐いて攻撃してきます……。……奴を動けなくしなければこちらにとても勝ち目はありません……。」


「ほう!よく俺のことを知っているじゃないか!そこの陰気・・な女!」


……気のせいかクエインの言葉でマリスが顔に青筋を立てて怒りに震えているような……。


いつも冷静なお前までそうなっちゃったら俺たち全滅しちゃってもおかしくないじゃんっっ!!

ルビも後ろで頭を抱えて小刻みに震えているし。コレ詰んだっ!!絶対詰んだっっ!!


そう思って動揺している俺の肩にウェンディが右手をかけて言った。


「おいおい!俺様がいるのを忘れちゃ~いないかい?既にトラップは仕掛けておいたぜ?お前らがくっちゃべってる間にな!!」


「……なに?ほう……。少しは楽しませてくれそうだな!行くぞっ!!」


そう言うと爆炎のクエインが俺達目掛けて滑空してきた!



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