第6話

 一方、こちらはカイトと別れ一人寛ぐマリス。

 「レビング・アイズ!」

 少女が呪文を唱えると少女の瞳が仄かに妖しい青い光に包まれる。


 少女の瞳には地面に座って休んでいるカイトの様子が鮮明に映し出される。


 「……あのぱちもん勇者め…!!さっさと闘えっつーの…!!」


 ……と、すっかり油断しているカイトの後ろから何か小動物がすごい勢いでタックルをかました。

 

 「……よしよし。ようやくね…。」マリスは満足げにうすく微笑んだ。


 ……30分後、森の奥からカイトが戻ってきた。その隣にはなぜかネズミのような生物が引っ付いてきている。


 マリスはカイトとネズミもどきの戦闘を少し見た後、しばらく放っておいても大丈夫だろうとすぐに魔法を解いてまたすっかり寛いでいた。


 なので、なぜ戦っていた筈のネズミもどきが仲良くカイトに付いてきているのかがわからない。


「……でなんで、そのネズミもどきがついてきてる訳…。」

 

 「いや、だからかくかくしかじか、って訳で。」


 カイトが戦闘の後の顛末をマリスに報告すると、

 「……はぁ?何回か棍棒で殴ったら仲間になった?……なにそれ……。」


 ……そうは言いつつもマリスは動揺していた。それはまさか以前話に聞いていたあの人間と同じ能力なのではないだろうか?、と。


 「……とにかく、あんたの能力はなんとなくわかったわ……。…さっさと城までもどるわよ……。」


 そう言って立ち上がりパンパンと土を払ってからマリスはスタスタとカイトを置いて歩き出した。


 「…ちょ、待てよ!!」声を荒げながら慌ててカイトもその後を追った。



 ラングーン。ジャーナ大陸のやや南に位置する「聖都」。

 そのはずれには数千年前に建立された大神殿の跡地が残り、白い大理石に似た石で造られた美しい城には広大な敷地の片隅に別棟としてラングーンを守護する魔導騎士団の本拠地が存在している。



 今その本拠地にて魔導騎士団の主だった面子による緊急会議が会議室にて執り行われていた。


 その場にはまだ代替わりしたばかりの魔導騎士団団長であるリル、参謀であるクォーク・エル・グリドラ、先代魔導騎士団団長であるリルの祖母キィール・クイン、副団長で武闘派である、赤黒い肌にオリーブ色の短髪顎髭の大男シン・ケネス、そしてカイトをバースの泉まで連れて帰還したマリス・ウェイの5人がいた。


 先程から自分達の召喚した勇者の処遇についてあれやこれやと議論を繰り広げている。


 「やはり、儀式に失敗してしまったからには再び条件と触媒が揃うまでは、あの者は軟禁しておいて召喚の儀に付随してもとの世界に送り返す、それがベストでは?」


 副団長のシン・ケネスがギラリとした眼光で一同に提案する。


 「いやいや、一度召喚した以上はあの者が勇者ということで決まりでしょう?」


 参謀のクォーク・エル・グリドラがそれに異を唱える。


 「……しかし、あの者は自身は攻撃が出来ぬ割には、どうやら妙な能力を持っておるようではないか?」


 二人のいさかいを取りなすようにリルの祖母で先代魔導騎士団団長であるキィール・クインが発言する。


 「確かにモンスターと闘っても自身は一切負傷せず、かつその闘ったモンスターを仲間に出来るというのは強力な能力でしょう。しかし、マックスの馬鹿者のせいで明らかに召喚の儀は失敗しております!!そんな強力な能力とはいえいつまでも発現したままだとは限りますまい!!」


 シンは武闘派の割には些か形式に拘り過ぎる嫌いがある。要は頑固なのだ。


 しかし、キィールもそんなシンの気性には慣れている。紫の衣にかかった白髪の三つ編みを軽く払いながら、


 「しかし、シンよ。魔導騎士団の掟では一度召喚した者は原則勇者として取り扱うと何百年も昔から決まっておろう。例え、予期せぬアクシデントが起こったとしてもそれは変わらぬ。」


 「……うぅむ……。」


 いくら明らかに失敗だとはいえ、形式に拘る以上はシンもそれ以上は言い返せない。


 「……決まりじゃな。あの者には伝統通り勇者の召喚と同時に出現する聖剣、そして聖鎧を取りに行って貰う事とする。……それではリル、マリス、そしてシンよ。お前たちはあの者と旅に出るがよい。」


 「マリスはともかくなぜ団長であるリル様、副団長のわしが同行せねばならないのです!!」


 唐突な命令にシンが顔色を変えてキィールに食って掛かる。それでも、キィールは眉ひとつ動かさずに、 


 「……これは団長であるリルの後見人たる儂の命令じゃ。良いな、リルよ?」


 そう問い掛けられて戸惑いながらもリルは首を縦に振った。 

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