『小さなお話』 その107

やましん(テンパー)

『ぱわはらごき』

  『これは、フィクションです。この世とは、一切関係ありません。』


             🌀


 ねこママのお店の一番端っこにある席に、5ごきが、すわっていたのです。


 ゴキ軍団の事務職員たちであります。


 事務所長と、事務部長、事務課長、事務統括長、それに、事務調査ごきだったのです。


 一番年上は、調査ごきでしたが、ちょっと、ストレスからか、能力の限界なのか、それとも、なにかに落胆していたのか、なんかよくわからないけど、うつごき状態になり、ついでに、体も壊して、一番下に格下げになっていました。


 お給料も、大分減らされていましたが、ほんごきは、仕方ないと思っているようでした。


 ほんごきなりに、頑張ろうとはしていたのですが、なにをやっても以前のようにはゆかず、仕事の相手方から苦情が舞い込んだりもして、なかなか、上司の納得は得られないのでした。


 『申し訳ないとは、思います、はい。』


 とか、言い訳ばかりしています。


 こいつ、わざと、仕事が上手くできなくなっているらしいから、ちょっと、喝を入れてやろうと、事務統括長が、言い出したらしいのです。


 『いやあ・・・どうも、パソコンというものが、うまくゆかなくて・・・うまくしゃべれなくて・・・』


 調査ごきは、さらに、言い訳に必死でした。


 くびになったら、やましんさんや、はとさぶろみたいになりかねない。


 いや、ごきの世界は、もっと厳しく、食われてしまう可能性だって、あります。


 そこまでゆかなくても、表通りで、乾燥ごきになって、よこたわることになるかも。


 しかし、ドクターからは、『あまり、なんでも出来る出来るとは言わないほうが良いですよ。再発するごきが多いから。いちおう、相談通り、元気だとは言っておきましたが。』


 元気じゃないと、もし、伝えたら、どういう『ごき事』になるかわからないので、ドクターには、そう言うように、事務調査ごきは、あらかじめ、お願いをしていたのです。


 『きみね、給料だけもらったら済むと思わないでほしい。』


 と、所長さん。


 『いつになったら、仕事、できるようになるのよ。』


 と、統括さん。


 普段、一番近くにいる部長さんは、じっと、黙って睨んでいるだけ。


 よその軍団から派遣されて来たごきなので、どうやら、関与はしたくないらしいのです。


 課長さんは、わりかし、調査ゴキに同情的な感じです。


 『その、ちょっと、体にも問題があって。その・・・』


 『だから、手術してほしいと、言うのですよ。』


 『手術は、しくじる可能性があり、そのとき、だれが責任負うのかとか・・・。』


 『そりゃあ、いくらかリスクはあっても、将来のことを考えたら、そのほうが、

 きみのためだから。』


 と、所長さんは、大手術を勧めます。


 お腹を割って行う手術ですが、まあ、最近はごきの医学も進歩していて、『あまり心配は要らない、入院は、一~二か月かな』と、別のドクターからは言われていました。


 やがて、調査ごきは、解放され、カウンターでうつぶせになっていました。


 『はあ・・・・あいつ、実は、ほんごきの事を思って言ってるんじゃないのかもなあ・・・・・まあ、そりゃあ、そうだよなあ。責任者だもんな。これは、つまり、自決を要求してるのかなあ。』


 調査ごきは、つぶやいたのです。



        **+++++   ***** 



『なんだか、自分を見てるようだなあ。』


やましんさんが、カウンターで、ねこママにささやきました。


『よくある、話だもんな。』 


『じゃあ、助けてあげたら? 家主なんだから、あの連中、ばりっと、踏みつぶしたら、おしまいにゃんこ。』

 

『ばーか。家の中ならともかくも、ここではできないよ。カージンゴも監視してるし。ママにも、迷惑かけるだろ。』


『にゃんこ。そうなんだにゃん。』  😸




    **********   **********



 その晩、やましんさんの質素な食卓に、いちごきがあらわれて、じっと、ただ、見つめてきて、いたのです。


 『区別なんかつかないけどなああ。』


 やましんさんは、困惑したのです。



    **********              おしまい


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『小さなお話』 その107 やましん(テンパー) @yamashin-2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る