第365話

 焔鬼は覇鬼へ刀を振るった後、茜と桜鬼が放った妖術を回避する為に後方へ下がった。距離を取った焔鬼は、茜と桜鬼の近くで着地してから目を細める。妖術によって出来上がった爆煙の中にあるシルエットを見据え、先程の覇鬼が浮かべた表情が目に焼き付いていた。


 「……」

 「どうしたの?ほーくん」

 「いや、何でもない」


 焔鬼の様子が気になった茜は、首を傾げて焔鬼にそう問い掛ける。しかし、焔鬼は茜の顔を見ずに目の前を見据えたままそう答えた。

 やがて爆煙の中から姿を現した覇鬼は、ただ立ち尽くしたまま項垂れている。焔鬼から受けた刀傷、茜と桜鬼から受けた妖術によるダメージを受けているようだ。流石の覇鬼も、渾身の一撃となれば無傷という訳にはいかないのだろう。

 だがしかし、動く様子の無い覇鬼の姿を見据えて焔鬼は刀を構えた。


 「狸寝入りのつもりか?……いつまでそうしてるつもりだ、覇鬼」

 

 その問いに対して、覇鬼は項垂れた姿勢からゆっくりと上体を起こしたのである。

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