第330話

 「――っ!」


 覇鬼から感じた悪寒に全身を包まれた焔鬼は、茜と桜鬼の下へ向かう為に地面を蹴った。距離を一気に縮めた焔鬼は、覇鬼から広がった妖力による風圧を防いだ。

 焔鬼を中心に半球型の防御壁が生成され、茜と桜鬼を庇うように展開し始める。しかし、その範囲の外から覇鬼は既に距離を詰めていた。その速度を目で追った焔鬼は、手で振り払うと同時に妖力の壁を作り出して牽制する。


 「ほぉ、世の動きを遮ったか。つくづく小賢しい真似をする」


 睨み付ける焔鬼に対して、覇鬼はニヤリと笑みを浮かべてそう言った。そんな覇鬼の様子を窺いながら、茜と桜鬼を庇うように刀を構える。


 「こいつ等には近付かせねぇよ」

 「ほーくん、大丈夫?」「兄様、ご無事ですか?」

 「あぁ、大した事はない。それよりもお前等、まだ戦えるか?」

 「うん、問題ないよ」「私も問題はありません」


 茜と桜鬼は戦っていたからか、妖力を消耗しているはずなのは間違いない。だがしかし、茜と桜鬼は戦うつもりなのだろう。焔鬼へ向けられる眼差しには、戦う意思という物が伝わってくる。

 それを感じた焔鬼は、肩を竦めながら目を細めて告げる。


 「守りながら戦うつもりは無いぞ?」

 

 そんな事を言った瞬間、茜と桜鬼は互いに顔を見合わせて言ったのである。


 「勿論、守られるばかりではありませんから」

 「だな。……ほーくんに合わせてやるよ」


 茜は再び鬼化し、桜鬼は数枚の札を取り出した。そんな二人を見た焔鬼は、口角を上げて呟いた。


 「あぁ、背中は任せた」

 「はい!」「あぁ!」

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