第325話

 「ほぉ、まだやる気があるのか?仲間を何人集めようとも、所詮は数の寄せ集めに過ぎんぞ。群れるという事は、己の弱さを認める行為に等しいものだ。貴様等は今、勇敢に世に挑んでいると思っているのかもしれないが……それは違う」


 覇鬼は小首を傾げながら、目を細めて言葉を続けた。


 「――それは無謀というのだ。世を倒す事など、貴様等に出来ん」

 「無謀かどうかは、結果を見てから決めるんだな!」


 焔鬼が地面を蹴って覇鬼との距離を詰めた瞬間、他の妖怪達も覇鬼へ攻撃を仕掛ける。四方八方から攻撃を仕掛けられているというのにもかかわらず、覇鬼はのらりくらりと回避して直撃のみを片手間に防いでいる。

 その様子に苛立ちを覚えたハヤテは、一度距離を取った所で口を開いた。


 「チッ、俺達の攻撃が通用しねぇとか、とんだ化物じゃねぇっスか」

 「手を止めんなっ、奴に攻撃出来る隙を与える訳にはいかねぇだろ!」

 

 そんなハヤテの言葉に物申した狂鬼は、そう言ってからすぐに攻め始める。妖力によって位置がバレている以上、姑息に隙を作ろうとしても作れないだろう。そう考えを抱いたハヤテは、今よりもさらに速度を上げて地面を蹴った。


 『総大将っ、おいら達はどうすれば?』

 「お前等は無茶するな。負傷した奴の回復に専念してくれ、戦闘員だけ攻め続けろ」

 『分かりやした!!』


 焔鬼の指示に従った妖怪達は、覇鬼へ果敢に攻め続けている者達の傷の手当に立ち回る。種類も系統も全く違う者達が、互いに同じ目的を持って一致団結して覇鬼に挑んでいる。

 そんな様子を見つめる蒼鬼は、目を細めて過去に見た情景と重ねる。魔境で共に戦った黒騎士達との記憶。その情景が重なり、かつての記憶が蘇っていく。


 「……」

 「意気込み良く勝負を挑もうとしてた奴とは思えない顔してるなぁ、お前」

 「……酔鬼か」

 「お前らしくねぇなぁ。戦う理由が欲しいってんなら、現世を守るっていう理由があるだろ。俺は知らねぇが、ここで少し暮らしてたんだろ?守る理由として十分な時間だと思うぜ」

 「そう言うが、私達の今までして来た事は……全て無駄だったというのか?」


 魔境で黒騎士の立場は、魔境を守る者達であり、魔境の王の命令に従う存在でもあった。それを数年、数十……数百年もの間を過ごした時を思い出せば出す程、蒼鬼は本当に覇鬼の事を倒して良いものかと未だに決断が出来ずに居たようだ。

 その会話をいつの間にか聞いていた茜は、溜息混じりに蒼鬼へ告げるのだった。


 「現世を守る。……貴方のして来た事にも意味があったし、守る場所が変わっただけ。もし覇鬼に従うっていうなら良いけど、その時は私達も容赦はしない。でも同じ町を……世界を守る為に戦うのなら、私達は貴方の力になるし、絶対に見捨てないよ」

 「姫様……っ、御命令を」


 頭を下げつつ、茜の前で膝を折った蒼鬼。その姿を見た茜は、酔鬼にどうしたら良いという視線で訴えた。だがしかし、肩を竦めた酔鬼は笑みを浮かべて告げる。


 「命令してやれよぉ、姫さん。そいつは頭が堅いだけだが、戦力になるからな。従うのが奴か焔鬼か姫さんになるだけって事だぁ」

 「分かった。……蒼鬼、私に……私達に力を貸してくれる?」

 

 その言葉に頷いた蒼鬼は、自身の妖力に身を包んだのだった。

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