第297話

 スッと中空に手を動かした覇鬼は、ニヤリと笑みを浮かべて人差し指のみを動かした。その瞬間、見えない斬撃が地面を抉った。衝撃によって宙を舞う砂埃を見据えたまま、覇鬼はハヤテの様子を窺う。

 しかし、同時に地面を蹴っていたハヤテはそこに居なかった。


 「――何処を見てるっスか?」

 「っ!」


 回避行動を取ったと同時に接近していたハヤテは、目を見開いて覇鬼に斬り掛かっていた。反応が遅れたように見えたハヤテは、完全に捉えた事が出来たと感じていたのだろう。

 だがしかし、覇鬼は既に振り下ろしている様子を見てほくそ笑んだ。


 「速さは認めよう。だが、その程度では世は倒せんぞ?」

 「くっ……!」

 「この技は応用が利くのだ。例えば、このような事も出来るぞ」

 「っ!?」


 そう言いながら覇鬼は、目を細めて視線を動かした。その視線はハヤテから外された事に気付いた瞬間、狙いが自分ではないと瞬時に理解したのだろう。

 先程よりも素早い速度で地面を蹴り、覇鬼との距離を一気に詰める。そんな反応を見せたハヤテに対し、覇鬼は言葉を続けた。


 「こうして余所見をしても、意識さえすれば……な?」

 「っ!?(こっちを見てないのに、俺に斬撃を……ぐっ、姐さん達を狙おうとしたのはブラフっスか)」

 「当たれば良し。当たらなければ、さらに強く意識すれば良い。より強い斬撃を飛ばす事も可能だ」

 

 そう告げた瞬間、ハヤテは目を見開いて自身の起きたそれに気付いた。だが気付いた時には既に遅く、ハヤテの視界は真っ赤に染まったのである。

 四肢から血飛沫が溢れ出たハヤテだったが、血だらけになっただけで四肢が斬り落とされる事は無かった。地面に着地して顔を上げるハヤテに対し、覇鬼は感心したように目を細める。


 「ほぉ……咄嗟に急所を避けたか。やはり、貴様は目が良い……邪魔だな」


 その言葉と同時に手刀を横に払った覇鬼の足元で――ハヤテは光を失った。


 「う゛ああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!??」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る