第277話

 暗雲に空が包まれ、曇りだった空がさらに曇った。やがて暗闇に覆い尽くされる様子を眺めていた彼は、足を止めて目を細めている。そんな様子が気になったのか、狂鬼は眉を寄せて足を止める。


 「どうしたんだよ、いきなり足を止めて」

 「お前、分からないのか?」

 「は、何が?……――っ!?」


 彼の言葉に疑念を浮かべた途端、狂鬼は圧し潰される程の妖力を感じ取った。心臓が鷲掴みにされていると錯覚する程の気配を感じた狂鬼は、その場で膝を折って目を見開いていた。


 「(この気配……マジかよ。あの方が、あの方が来たってのか……つか、オレよりも早くこの気配に気付いた?本当に別人なのかよ、お前っ)……チッ」

 「顔色が悪い……随分と辛そうだな?」

 「う、うるせぇよ」

 「オレがとやかく言うつもりも、心配する義理はないが一度でも刀を交えた間柄だ。少しだけ、その気分を和らげるとしよう」

 「は?」


 そう告げた彼は、小さく笑みを浮かべて手を伸ばした。伸ばされた手は空へ向けられ、やがてもう片方の手は二本指を立てて口が開かれた。


 「が命ずる――血界術けっかいじゅつ零式れいしき烽妖陣ふうようじん


 その瞬間、暗雲の前を遮るように方陣が出現した。それを見た狂鬼は、口角を上げて目を細める。それを知り、覚えているからこそ狂鬼は笑みを浮かべざるを無かった。

 何故ならその陣は、焔鬼が自身で開発した人間と共存する為に作られた結界妖術。魔境と現世の間を塞ぎ、という名を付けられた空間を作った術。その術を綿密に、容易く操る事が出来るのは……開発者である焔鬼その人だけである。


 「っ……あぁ、やっぱり……あんたはそう簡単に死なねぇよな」

 「何か言ったか?」

 「何でもねぇよ、馬鹿野郎が」

 「何を苛立っているんだ、お前は」

 「うるせぇよ、何でもねぇって言ってるだろうが!(あぁ、鬼組おまえら……喜べよ。生きてるぜ?お前等が大好きな存在ひとが)」

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