第二十夜「あの人の右腕だ!」

第264話

 ――由良茜が桜鬼と対峙し、鬼化する数時間前。


 黒騎士の一人である刹鬼は、目の前で虫の息となっている相手を見て苛立ちを覚えていた。木に背中を預け、肩で息をしている傷だらけの男。その男を見据え、刹鬼は問い掛ける。


 「やる気あんのかテメェ。その程度の実力で、オレ様の相手が務まると思ったのかよ。あの方が警戒すべきだと言うから期待したんだがな、鵜呑みにして損したぜ」

 「……はぁ、はぁ……ははは」

 「何を笑ってやがる」

 「いやぁ参ったっスよ、ほんと。まさかあの人が本気で俺達を潰そうとするなんて、二年前までは考えてもみなかったっスからね」


 容赦なく攻撃を受けていたのだろう。だがしかし、男は笑みを浮かべながら溜息を吐いて呟いた。ユラリと体が揺れる中で、刹鬼は少し違和感を感じ始めた。


 「(こいつ、オレ様の攻撃で致命傷を避けてやがる。あれだけ連打を叩き込んだってのに、こいつ……まさか今までわざとオレ様の攻撃を)」


 その違和感を感じ始めた刹鬼は、さらに苛立ちを覚え始める。そんな刹鬼の表情を見た男は、ニヤリと笑みを浮かべて片手に小刀を握って構えたのである。


 「そろそろ俺も攻撃、して良いっスかねぇ」

 「あ?」

 「鬼組総大将代理、ハヤテ。――正真正銘、本気で行かせてもらうっスよ」

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