第262話
砂埃が何度も宙に舞い、衝撃が周囲の空間を揺らす。刀を振り下ろす度、回避する桜鬼を貫いて斬撃が地面を這う。凄まじい速度で攻められ、苦し紛れに回避しているのは表情を見て明らかだ。
それを追い、茜は刀を振り続ける。振るわれる刀には、妖力が覆い包んでいるから折れる様子もない。ついで一回の一回の攻撃で、その妖力を放出しているから常に新しい妖力で刀が保護される。
「くっ……(駄目だ。私の攻撃には、必ず準備が必要になる。今のままじゃ、避け続けるだけでジリ貧になるっ)」
「おらおらぁどうしたよサクラちゃん!避けるばかりじゃ、私は倒せねぇよ!」
「っ!?」
さらに速度を上げて接近した攻撃が振るわれる。それに目を見開いた桜鬼は、舌打ちをして思い切り距離を取った。目の前から桜鬼の姿が遠くなった事は、刀を通じて攻撃が当たらなかった事で把握している。
鬼化している状態でも、茜の潜在能力は健在。いや、寧ろ研ぎ澄まされていると言っても過言ではないだろう。いくら距離を取って隠れたとしても、半妖である茜の策敵範囲は……焔鬼以上だ。
「見ぃーつけた♪」
白い歯を見せてニヤリと笑みを浮かべた茜は、そう言いながら刀を地面に突き刺して二本指を立て始める。片手は突き刺した刀を杖のように手を添え、もう片方の手は妖術を扱う桜鬼と同様の構えだった。
「魔境の姫巫女が願い奉る。――我が妖力と血を以って、総てを粉砕し給え、吹き飛ばし給え、我を縛るは紅き鎖、暗き牢獄は唯の一人も出る事はなく、命在る者は大地を這う、震え、奮え、揮え、振るえ、全てを薙ぎ払う、我が力は紅き龍が如く」
そう紡いだ茜は突き刺した刀に添えていた手から、全身を覆い尽くす程の獄炎が出現し始める。やがて球体となったその中で、茜は再びニヤリと笑みを浮かべて最後の言葉を言い放った。
「……我が侭に、身勝手に、蹂躙し給え」
その瞬間、球体は凄まじい勢いで天を貫く柱を作り上げた。全身を覆い包んでいた獄炎は、茜を中心に周囲の物を溶解させる。その熱に耐えられず、森も、地面すらも溶けている。
やがて獄炎の柱が消えた時、そこに居たのはただ鬼化した茜ではなかった。片角だけではなく、容姿そのものが変わって佇んでいる。ゆっくりと目を開けた茜は、静かに呟いたのである。
「纏い……――
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