第258話

 式神の相手を託された桜鬼は、口角を上げながら数枚の札を取り出した。式神を相手にする事は、自分じゃ役不足かもしれないと感じていたのだろう。だがしかし、憧れの対象であった彼に託された途端、桜鬼の辞書からという二文字が消え去った。

 

 「あの方から託されたのですから、それ相応に相手をさせていただきます。しかし、解せないですね。相手が変わった瞬間を見計らって、現世へ逃げようとするとは!!」

 『グギャァァァァァァァオ!!!』

 「おや、式神も痛みを感じるのですね?では……私もやる気を出さなければいけませんね」


 ニヤリと笑みを浮かべた桜鬼は、両手一杯に札を取り出す。両手を広げたと同時に手から離れた札は、自我があるかのように桜鬼の目の前で方陣を作り出した。

 その様子を見た瞬間、式神である狐は牙を剥き出して大口を見開いた。そんな反応を見た桜鬼は、笑みを浮かべたまま言葉を続ける。


 「展開された術を一目で理解したようですね。ですが、既に遅いですよ。私はあの方々と違い、妖術だけは自信があるんです」

 『ガァァァァァァッッ!!?』

 

 その発言と同時に発動された術により、狐は驚いたように目を見開いた。警戒していたのか、桜鬼から距離を取ろうとしたのだろう。だがしかし、既に発動されてしまった術に拘束された。

 身動きが出来なくなった事を理解した桜鬼は、二本指を立てたまま狐に近寄りながら告げる。


 「動けないでしょう?これでも私、慈悲は与えるつもりです。大人しくしているのならば、痛みを感じずに葬って差し上げますよ」

 『グゥゥゥッ』

 

 桜鬼の言葉に対し、狐は近寄る桜鬼を睨み付ける。しかし、桜鬼は笑みを絶やさずに続けて告げたのであった。


 「――ですが万が一、抗うのであれば容赦はしません。あなたが選択出来るのは、大人しく死ぬか、抗って死ぬかです。どうぞ、ごゆっくり選んで下さい」


 そう告げながら桜鬼は、身動きが取れない狐に電撃系統の妖術を放った。

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