第252話

 魔境の塔に集められた能力のある者達。幼少時に才ある者は、黒騎士見習いになり、そして黒騎士の座を手にし、魔境を統べる王の配下として力を振るう事が認められる。

 その者達の中には、焔鬼、茜、桜鬼の姿もあった。それはとある任務の際、魔境に侵入した陰陽師の式神を排除する任務。


 「……大した奴だ。式神とはいえ、ここまで苦戦するとはな」

 「ほーくん、大丈夫?」

 「あぁ、お前も無事みたいだな」

 「一人で攻め続けてたほーくんと違って、私は後衛してたからね」

 「後衛?お前は大した事してねぇだろ。働いてたのはサクラだろ」

 「えぇ!?そんな事ないよ、私だって頑張ってたってば!ねぇサクラちゃん」


 式神を倒した焔鬼の言葉に対し、茜は不満気な表情を浮かべて桜鬼に同意を求めた。振り返って声を掛けられた桜鬼は、戸惑いつつも茜の言葉を苦笑しながら頷く。

 

 「ほらぁ!サクラちゃんだって、そうだって言ってるじゃん!」

 「お前が言わせてるようにしか見えねぇよ。サクラの方が働いてたぞ?オレが戦ってる間、邪魔にならない程度で敵の動きを封じてたんだからな」

 「その式神が現世に帰らなかったのは、私が結界を張ってたからですー!はい、役立たずじゃありませーん!」

 「うだうだうるせぇな。結界はサクラでも張れるんだよ、そこを妥協してお前にやらせてるだけだ。何かさせないとお前の立場が無くなるってサクラに頼まれたからな」

 「えっ、そうなの?」


 焔鬼の言葉に驚いた茜は、本当かどうかを確かめるような視線を桜鬼へ向ける。その視線を向けられた桜鬼は、少しばかり照れたように頬を赤く染める。

 そんな可愛らしい様子に胸を打たれたのか、茜は勢い良く感謝しながら桜鬼を抱き締める。苦しそうにしつつも、桜鬼は嫌がっている様子はない。寧ろ、気恥ずかしさがありつつも受け入れているようだった。

 

 「ったく、しょうがねぇな」


 抱き締める茜と抱き締められる桜鬼、そして肩を竦めて近寄る焔鬼。その光景がいつまでも続くと信じ、今までも、そしてこれからも共に戦うのかと思っていた。

 

 ――それから数年後のある日の夜。


 『焔鬼と茜を生け捕りにしろ。抵抗する場合は、殺しても構わない。必ず世の前に連れて来い。奴等は裏切り者だ!……追え!』


 その声が塔に響き渡り、見習いとなった桜鬼の耳に届いた。共に行動して来た彼等、笑い合った彼等、喧嘩した彼等……様々な思い出がある中で、桜鬼は孤独となったのである。

 そして焔鬼を除いた黒騎士が結成された頃、同じく黒騎士の座を狙う同胞達を容赦なく葬る桜鬼の姿があったのだった。


 「……弱者は退きなさい。邪魔する者は、容赦なく排除します」

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