第184話

 視界を覆う程の氷景色。何の力を持たない人間が見れば、自分が何故この場に居るのか分からず命を絶やしてしまうだろう。一種の幻術に近いその空間の中で、魔鬼は目の前に姿を現した刹那を見据える。

 先程までの刹那よりも鋭い眼光を持っており、妖力も先程よりも重く感じられる。自分よりも強い存在だと理解してしまうが、魔鬼は冷やせを伝わせながらも刹那から視線を逸らす事はしなかった。


 「……黒騎士風情?その言葉、そっくりそのまま返してやるわ!」

 「所詮は有象無象の中の一人でしょう?貴女では、私に勝つ事は不可能ですよ」

 「そんなの、やってみなきゃ分からないでしょうがっ!!」


 魔鬼はそう言い放ったと同時に地面を蹴り、刹那との距離を一気に詰めた。だがしかし、涼しい表情をしたまま刹那は手を横に振った。その瞬間、魔鬼が到達する前に氷の壁が出現して行く手を阻まれる。

 壁によって視界を塞がれた魔鬼だったが、空かさずに火球を生成して壁の内側へと飛ばした。弧を描いて刹那へと火球は接近する。数発の火球が刹那へと襲い掛かり、爆風が壁の内側を覆い尽くした。

 

 「っ……くはは、避ける事も出来ないなんて、口だけは達者なようね!!」


 爆風に包まれている刹那へ、魔鬼は高らかに笑みを浮かべて言った。明らかに直撃し、妖力の込められた火球は凄まじく爆発している。常人であれば、今の攻撃で大火傷を負っている事だろう。

 

 「避ける?貴女は何を言っているのですか」

 「っ!?」


 だがしかし、爆風の中から聞こえた声にハッとした。爆風を振り払った刹那は、砂埃と共に体に付いた雪を手で叩き落とす。その様子を見ていた魔鬼は、姿が見えた途端に目を見開く事になったのである。

 何故なら、目の前に姿を現した刹那の体には……――傷一つ付けられていなかったのだ。


 「世迷言を。避ける必要が無いだけですよ」


 次はこちらの番ですね、と続けて刹那は手甲を魔鬼へと向けた。


 「――妖術、氷華ひょうかめつ


 その言葉と同時に、魔鬼の視界はさらに真っ白に染められたのだった。

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