第141話

 ポタポタと滴り落ちる赤い雫が、魅夜の手元から地面に溜まる。その水溜りが出来始めている横で倒れ、虫の息となりつつある右近の姿があった。

 それを視界に入れた左近は、何が起こったのか理解が遅れたのだろう。ハッとした様子で魅夜の事を睨み付け、ようやく目の前で何が起きたのかを理解した。


 「ッ、よくもお姉様を――ッ!!!」

 「殺す……お前達は必ず、ボクが殺すっ!」

 「それはこちらの台詞だっ!!!」


 左近はそう言い放ち、思い切り袖を振るった。その瞬間、袖口から数枚の札が青い炎を纏って出現した。両手の指で印を結び、それはやがて一つの球体となって魅夜に放たれた。


 「――怨札弾えんれいだんっ」

 「その程度の術で、ボクを殺ろうって?ぐっ、ふざけるなっ!」


 だがしかし、放たれた球体は魅夜に届かなかった。何故なら、魅夜がそれを片手で砕いたからだ。受け止める事もなく、防ぐ事もなく、ただハエを叩くが如くに球体を退けたのである。

 それを見た左近は舌打ちをしつつも、次の一手へと既に動いていた。先に放った球体は囮であり、本命はこの後の特大の鬼火だったのだろう。


 「焼き尽くされてしまえ!」

 「フッ……丁度良い炎だ」


 だが、その鬼火も魅夜に届く事はなかった。ニヤリと笑みを浮かべた魅夜に対し、目の前で煙が消えるのを待つ左近は目を疑う事になる。


 「ぐっ……ぐぎぎぎぎ……オマエェェェェェェェッッッ!!!」


 そこには、右近の体を盾にした魅夜の姿があった。

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