第119話

 神埼邸に烏丸を運んだ狂鬼は、妖怪達から本当の意味で仲間だと認められた。ボロボロの烏丸を運んでいた姿が、他の妖怪達にも見られていたのも印象の変わった理由だろう。

 妖怪達から治療を申し出られたが、狂鬼はまだ戦いは終わってないと告げて再び外へ出ようとする。だがしかし、烏丸程ではないにしろ、ボロボロなのは狂鬼も同様なのだ。

 そんな傷だらけの狂鬼を戦いに出すなど、妖怪達は放置するべきではないと考えていた。


 『その傷ではまともに戦うなんて無茶です!ちゃんと手当てを受けて下さい!』

 「いや、オレよりも烏丸そいつを優先してやってくれ。オレはまだ全然大丈夫だ」

 『それでも駄目です!』

 「いや、本当……マジで良いから。自分の事はオレが一番分かってる」

 『……』


 その言葉に頷くべきか、それとも引きとめて治療を受けさせるべきか。顔を見合わせる妖怪達は、困惑しつつも決断した。狂鬼の事を詳しく知っている訳ではないが、その性格は少しだけ理解しているつもりなのだろう。

 一度決めた事は折れる事はない。そんな性格であると感じていた妖怪達は、微かに嫌がりながらも溜息混じりに狂鬼に言った。


 『――なら、せめて応急処置だけはさせて下さい!そのままでは傷が悪化してしまいますから』

 「はぁ、分かった。……本当にそれだけで良いからな?」

 『分かりました。もうお止めはしません。ですが、これだけは約束して下さい』

 「何だよ」

 

 治療を拒んでいた狂鬼を止める事は、既に無理だという事は理解した。だがしかし、今までよりも真剣な眼差しを向けて妖怪達は狂鬼に告げる。


 『――必ず、生きて帰って来て下さい!これはこの場に居る者達、全員の願いです。それを忘れないで下さいね?』


 一斉に向けられている視線を一つずつ、見渡す限りに向けられる視線は全て同じ。言っている事が本当だという事は、捻くれている狂鬼にも嫌でも理解出来た。

 そして目の前まで詰め寄っていた妖怪に視線を戻し、狂鬼はたった一言だけ告げたのである。今までよりも、柔らかい表情を浮かべて……。


 「あぁ、分かった。必ず生きて戻って来る」

 『約束ですよ』

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