第117話

 狂鬼は戯鬼との戦闘後、烏丸を抱き抱えて神埼邸に向かった。その様子を陰陽堂から見つめていた刹那は、目を細めつつ周囲を様子を探る。

 餓鬼の群れから陰陽堂へ避難してきた人々を護る為、刹那は陰陽堂に待機しながら餓鬼を撃退・討伐を繰り返していた。だが狂鬼と戯鬼の戦闘が始まった途端、餓鬼の侵攻は少なくなった。

 それを機に周囲の様子を探った刹那は、狂鬼が神埼邸に向かっている様子を捉えたのだろう。他の妖怪に陰陽堂の守護を任せ、大きな妖力の気配を追う事にした。


 「……この気配、魅夜さん?」

 

 町全体を見渡せる場所に辿り着いた瞬間に感じた気配。その気配の方を見据えた刹那は、気配の主である魅夜の方へと急ごうとした。だがその瞬間、重く圧し掛かった妖力が刹那の体を硬直させるのであった。


 『行かせると思う?』

 「――っ!?」

 

 その言葉に背筋が凍ったような感覚が全身に走った刹那は、その寒気を振り払うようにして腕を振るった。だがその腕は空を切り、言葉の主の姿は無かった。

 しかし、重い空気を感じる程に気配は残っている。その気配を探りながら、刹那は周囲の警戒範囲を拡大させていく。


 『鬼組幹部が一人、雪女の刹那……で、合ってる?』 

 「妙ですね。私に貴女のような知り合いは居ませんが?」

 『焔鬼様から教えてもらったのよ。まぁ、あたしの姿を見つけられないようじゃ、大した事ないみたいだけど』


 声は聞こえる。だがしかし、声の主の姿が見当たらない。背後へと回り込まれたのは妖力を殺気で飛ばしただけの幻影か、もしくは一瞬で刹那の警戒範囲外に移動したかの二択。

 そう考える刹那だったが、やがて溜息を吐いて目を細めて呟いた。


 「大した事ない、ですか。……他人を見た目で判断してはならないと、幼い頃に習いませんでしたか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る