第116話

 幽楽町全体に拡がる妖力の波紋。強力な妖力を持っている者同士の衝突は、周囲の者に戦況がどうなっているのかを感じさせる。誰が衝突しているのか、誰が誰と戦っているのか、そういう情報が妖力越しで伝わってしまう。

 そして、どちらが勝ったか負けたか……それさえも、分かってしまうのである。


 「この気配は……(チッ、あの者、負けましたか。兄様がせっかく解放してやったというのに、その恩義も返さずとは……やはり、反吐が出ますね。兄様以外の黒騎士は、蛆虫同然です)」

 「(な、何だこいつ。さっきよりも妖力が濃くなってねぇか?)」

 

 感じた妖力から情報を読み取った桜鬼は、苛立ちを覚えた様子でムスッとした表情を浮かべる。そんな桜鬼と対峙していた杏嘉は、警戒しつつ距離を取って身構える。

 だが、今の桜鬼に杏嘉は眼中に無いだろう。何故ならば、黒騎士を纏めている立場という責任感からか、他の黒騎士に伝える内容を考えているからだ。

 そして伝える内容の話だが、そんなものは一つに決まっている。


 ――そう。衝突した二つの妖力の内、消滅しなかったのは狂鬼だからである。


 「ふぅ……ったく、時間掛けさせやがって。……待たせたな、烏丸。すぐに屋敷に戻るぞ」


 狂鬼はそう呟いて、烏丸を抱えて地面を蹴った。

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