第106話

 「……これからやるのは、テメェの好きな殺し合いだ」


 そう告げた狂鬼は、戯鬼の眼前で手斧を振り下ろした。見失った事に戸惑いを隠せない戯鬼は、微かに反応が遅れながらも紙一重でそれを回避。

 空かさず距離を取った戯鬼は、疑念に包まれた視線を狂鬼へ向ける。


 「(ワタシが見失っタ?狂鬼の動きヲ?そんナ、馬鹿ナ!!?)」

 

 今までの戦闘で戯鬼は、戦闘人形として様々な相手と戦ってきた。その中には当然、黒騎士である焔鬼、蒼鬼、剛鬼、蘭鬼、妄鬼、酔鬼も入っている。

 そしてその経験データは、戯鬼にとって大きな情報となっている。それは黒騎士と戦った際、戯鬼にとって大きな糧となっているのは明白。だがしかし、同じ黒騎士となった狂鬼との経験は少ない。

 だが、少ないと言ってもその程度は戯鬼にとってはだった。単なる情報の一部でしかなかった。しかし、今の狂鬼の動きはそのを明らかに越えていたのである。

 動揺を隠せない戯鬼の様子を見て、狂鬼は目を細めて手斧を仕舞った。代わりに大斧を出現させ、肩に担ぎながら眉根を寄せて言った。


 「どうしたよ、戯鬼。鳩が豆鉄砲を……いや、オレ達風に言うなら鬼が豆を投げられたような顔しやがって。か?」

 「まだ力を隠していたのカ?狂鬼」

 「隠してたっていうのは、少し違うぞ戯鬼。オレは力を隠してたんじゃない。力を出せなかったんだ」

 

 そう。狂鬼は力を隠していたんじゃない。のである。

 その原因となってしまっていたのは、狂鬼の背後で影に覆われている烏丸である。怪我の治療を目的に神埼邸へ目指したが、その途中で戯鬼に追い着かれてしまった。その時点で、狂鬼は考えていたのだろう。

 

 ――『守る』という選択肢を捨てる事を。


 「見せてやるよ、戯鬼。テメェが知らねぇオレの力をさ」

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