第103話

 「くっ……」


 狂鬼の前で妖力を膨れ上がらせる戯鬼。その妖力は、可視化出来る程のオーラとなっていた。空を貫き、周囲を圧迫する程に重い空気が覆い尽くす。

 その圧迫感に奥歯を噛み締め、狂鬼は戯鬼を見据えて再び戦いを挑もうとしていた。だがしかし、狂鬼が不利な点で二つあった。


 「……」


 一つは背後で球体で包んだ負傷する烏丸。影で生成されたその球体は、狂鬼は保て無くなるまで出現したままとなる。逆を言えば、意識を失ったり集中力が途切れれば、その球体は消失する事になってしまう。

 そうなってしまえば、負傷している烏丸が無防備状態となってしまうだろう。そして当然その時、狂鬼は烏丸を守る事が出来なくなるという事だ。あまり離れる事も、近くなり過ぎる事も気を付けなければならない。

 

 そしてもう一つは……戯鬼の能力についてだった。


 狂鬼にとっては、後者の方が重要だろう。何故なら、戯鬼の詳しい能力は不明なのだ。そして能力の一端として見る事が出来たのは、狂鬼が使用した「纏い」を消滅させられたという事だけだ。

 当然、黒騎士の血液から生み出された存在である以上、能力はそれだけと考えるのは早計だろう。まだ、どんな能力を持っているのか。それが不確かな状態では、狂鬼であっても勝利する事は困難だ。


 「纏い……――鬼神・阿修羅」


 そう考えつつも、今の戯鬼を倒すには「纏い」は必要だろう。そう感じた狂鬼は、呟きながらそれを使用した。だが、その瞬間であった。

 重く圧し掛かるような感覚が、狂鬼の全身に覆い被さる。それを感じた狂鬼は、その重い感覚に見覚えがあった。ハッとしたように目を見開き、その感覚を追うように周囲を探った。

 

 「ッ!!」

 「……まさか、あんたから来てくれるとは思わなかったぜ」


 建物の屋上へ視線を向けた戯鬼は嬉々としている様子だが、狂鬼は冷や汗を頬に伝いながら笑みを浮かべた。そこに居た者に告げた狂鬼は、言葉を続けてその者の名を呼ぶのである。


 「――二年振りじゃねぇか、兄ちゃん。いや……焔鬼」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る