第94話
――時は遡り、数十年前。
戯鬼が封印されていた頃の事である。封印され、身動きが取れずに居た戯鬼。当時は戯鬼という名前ではなく『戦闘用傀儡』と呼ばれていた戯鬼は、封印された時に許されていたのは言葉を交わす時間のみだった。
幽閉された空間で暗闇を感じ、ただ闇に覆われた世界で過ごす毎日は苦痛でしかない。人間であれば、恐らく数日しか正気を保つ事は出来ない状態だろう。だがしかし、戯鬼は違ったのだ。
数日、数ヶ月、数年……常人では耐える事の出来ない時間を過ごし、ただ身動きが取れない状態を嬉々としていたのである。そう、既に正気ではないのだ。
生み出された時から戦闘人形として扱われ、魔境の巣食う魔物と戦う日々。その毎日の繰り返しにより、戯鬼の精神は忠実なモノとは程遠いモノになっていた。
その過酷な日々を過ごし、精神が耐えられなかった戯鬼は暴走を起こしたと言っても過言ではないだろう。キッカケとなってしまったのが、生み出されてしまったという残酷な現実からの逃避。
人間であれば、耐える事は出来ないだろう。そんな暴走を引き起こした張本人に入ってしまっている焔鬼は、身動きすら取れずに幽閉されている戯鬼の前に姿を現した。
「……」
「何しに来たのですカ?焔鬼様」
「……」
焔鬼はその問い掛けには応えず、ただ目を細めて鎖に繋がれている戯鬼の事を見据える。力無く項垂れているのは衰弱しているのか、それとも復讐心を抑える為の演技なのか。
それを警戒する焔鬼だったが、次の言葉に思わず耳を疑うのであった。
「焔鬼様……ワタシはもう、用済みでしょうカ?」
「っ!?」
「まだ戦えル、戦えますかラ。ワタシをどうカ、アナタの道具としての役目ヲ……」
復讐心どころか、見せられたのは忠誠心だった。その懇願する様子の相乗効果なのか、戯鬼の表情には後悔の念が浮かんでいたのである。それを見た焔鬼は、何も言わずに振り返った。
しかし、ただ小さく。耳を澄まさなければ聞こえない呟きで、焔鬼は戯鬼に告げていたのである。
「――ならその力、オレの為に使え。いずれ、その時を用意してやる」
その時、初めて戯鬼は……笑ったのであった。
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