第73話

 人狼と化している豹禍が爆煙に包まれている間、綾に背中を押されて妖力の一部を解放した。だが完全に九尾化していない状態では、今の豹禍を倒す事は難しいと分かっているのだろう。

 

 「……待たせたな豹禍、勝負はここからだ」

 「やっとやる気になったか、九尾ぃ」

 

 可視化出来る妖力が衝突し合う中、少し離れた場所から杏嘉の背中を見つめる綾。見ている限り肉弾戦を得意とする事を理解した綾は、未だ跳ね上がっている豹禍の妖力の気配に訝しげな眼差しを向ける。


 「周囲の者を避難させて正解じゃったな。――あっちは、大丈夫かのう」

 

 綾はそう言いながら、その場から離れた場所の気配を探る。その場所は先程まで自分が居た場所であり、綾が杏嘉の元に戻る事が出来た理由である。

 

 「あの者を彼女あやつに任せてしもうたが……まぁ彼女あやつに任せても問題は無いじゃろう」

 

 肩を竦めつつ、綾は自分の考えている事が杞憂だったかもしれないと感じた。何故ならば、綾が任せたという彼女であれば問題無いと確信しているのだろう。

 仲間だとしても、信頼出来る部分は少ない。だがしかし、任せて来た彼女の強さには信頼しているのだ。


 彼女は――元黒騎士なのだから。


 「久し振りだネ、狂鬼」

 「オレはテメェに遭いたく無かったけどな、戯鬼ぎき

 「連れない事を言うネ。ワタシとオマエの仲じゃないカ」

 「……ハァ、面倒な奴を引っ張りやがって。何を考えてやがるんだ、あの人は」


 狂鬼が目を細めて呟くが、すぐに思考を中断させた。気になる事があったとしても、既に優先順位は決まっている。

戯鬼と呼ばれる黒騎士を見据えた狂鬼は、睨み付けたまま両手に斧を出現させる。そしてそれを手に持ち、戯鬼に向けながら狂鬼は言った。


 「――テメェはここで殺す」

 「オマエに……出来るかナ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る