第58話

 仮面の下から現れたのは、濁っていて光の無い瞳。額から顔の上半分を覆う程の傷は、村正という存在を大きく見せるには十分なものだ。


 「拙者は鬼組幹部が一人、鬼童丸の村正でござる。ここからは、拙者がお相手するでござるよ」

 「……ボクの目的は達成出来ました。貴方と戦う必要がありません」

 「釣れない事を言わないで欲しいでござるなぁ、拙者とも戦って欲しいでござるよ」

 「――っ!?」


 ハッとした龍鬼は後方へ下がった。その行動を見た村正は、口角を上げて見えない目を細めて口を開いた。


 「咄嗟の反応速度は良いでござるなぁ」

 「っ……」


 笑みを浮かべる村正に対し、龍鬼は冷や汗を伝いながら村正を警戒していた。何故なら、後方へ下がった龍鬼は近付かれたと錯覚したからだ。龍鬼と村正の距離は、数メートル開いてるとはいえ距離は開いている。

 それをたった一歩で近寄る事は、誰でもその行動を捉える事が出来る。いくら速く動いたとしても、視界から消えれば間合いに入る事は無いはずなのだ。だがしかし、村正は龍鬼の間合いに入った。

 いや、入ったと錯覚したのだ。だから後方へ龍鬼は咄嗟に下がり、戸惑いと動揺が同時に来ていた。いとも簡単に間合いへ入られたと警戒したが、村正の立ち位置は変わっていないからこそ龍鬼は動揺したと言えるだろう。


 「(今の、確実に声が耳元まで届いていた。ボクは非情ノ剱で察知能力が向上しているし、周囲には影で常に警戒していたはずだ。なのに、この人はそれを突破した?)……くっ」

 「どうしたでござるか?」

 「(いや、この人に光は無い。目が見えていないのなら、ボクにだって勝機はあるっ)」


 そう思った龍鬼は、非情ノ剱を構えて村正を見据えた。動揺で揺れている殺気を感じた村正は、再び口角を上げて告げた。


 「来るでござるか。ならば拙者も、受けて立つでござるよ」


 村正はそう告げた瞬間、持っていた仮面を空へと投げた。そしてゆっくりと構えを取り、龍鬼の攻撃に備える体勢へ移った。自分の中に勝機があると思っている龍鬼は、村正の言葉は挑発のように聞こえたのだろう。

 キッと睨み付けるように見開き、数メートル離れてる距離を一瞬で詰めた。だが間合いを詰めた瞬間、村正は小さい声で囁いたのである。


 「瞬光しゅんこう――鬼ノ太刀おにのたち

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