第57話
剛鬼は影に飲まれ、串刺し状態となった。その様子を見届けた村正は、一瞬にして串刺ししていた影を斬って剛鬼の事を支えた。ガラスの破片のように散らばる中で、剛鬼を支える村正の姿を捉えた龍鬼は目を細める。
「っ……(ボクの影を一瞬で斬り伏せた!?)」
その結果に動揺した龍鬼は、キッと睨み付けて村正に影を差し向けた。剛鬼と同様に取り囲まれた村正だったが、その場から動く事なく静かに呟いた。
「大人しくしているでござる。動けば――次はその首を落とす」
「っ!?(この殺気は、焔鬼様よりも……)」
一瞬で影を斬り伏せた村正は、静かに龍鬼の事を見据える。一歩も動く事が出来なくなる程、龍鬼は村正から注がれる殺気に包まれた視線で硬直した。身体が、全身が、本能が龍鬼の中で囁くのだろう。
――目の前の相手を侮ってはならない、と。
「剛鬼殿」
「っ……おお、村正殿。我は、負けたのだな」
「傷は深い。喋れば傷に響くでござるから、大人しく寝ているでござる」
「あぁ、そうしよう……」
「剛鬼殿を屋敷へ連れて行け。拙者の酒友を死なせる事は許さない」
周囲に居た鬼組の妖怪が、その言葉に従って剛鬼を運ぼうとする。重たい身体を騒動の中で運び切るのは、非常に困難だという事は村正自身も理解している。だがしかし、村正はそう指示を出したかったのだろう。
龍鬼と向き合おうとする村正に対し、運ばれようとしている剛鬼は言った。
「――――」
か細く、大きな身体を持つ剛鬼から出た静かな言葉。その言葉を聞き入れた村正は、顔を半分以上隠す仮面を外して応えたのだった。
「……任された」
その返事が聞こえたのだろう。運ばれる剛鬼は気を失いながらも、その表情には笑みを浮かべていた。やがて村正を見据える龍鬼と向き合った村正は、光の見えない双眸で龍鬼の姿を射抜いた。
「ここからは拙者が相手だ。文句は無いでござるな?龍鬼殿」
「――!」
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