第35話

 『グアァァァァ――ッッッ!!!!』


 斬られた餓鬼は叫んだ。斬られた腕から来る痛みに耐えているのか、斬った相手を見据えながらもう片方の腕を振り下ろした。だがその相手は、直前で抜刀して振り下ろされた餓鬼の腕を斬り伏せる。

 溢れ出る血の量を見つめ、倒れて消滅していく餓鬼はその相手へ手を伸ばすような動きをする。それを見つめながら、溜息混じりに口を開いて言った。


 「拙者を許さなくて良いでござるよ。先に地獄で待っているでござる」

 「貴殿が地獄に行くのであれば、我も地獄へ共に参ろうではないか。がっはっは」

 「その時は、また一杯……」

 「勿論である」


 鬼組幹部の一人、鬼童丸こと村正。そして元黒騎士の一人である剛鬼が共闘し、幽楽町の一部を守護していた。言葉を交わしながら餓鬼を倒すその様子は、互いの事を理解している良き友と言える仲に見えていただろう。

 一言で言えば、戦友である。


 「剛鬼殿、先程の鋭く濃い気配。それについてどう思うでござるか?」

 「うむ。直感的な物でしかないが、出したくない結論が出てしまっている」

 「(剛鬼殿も同様。拙者と同じ結論に至っているのでござろう。どうしたものか)」


 村正が最後の一体を斬り伏せ、刀を納めながら肩を竦めた。消滅していく餓鬼を見届け、両手を合わせて目を閉じていた。その様子を眺める剛鬼も、対面した最後の一体を倒して腕を回した。

 だが次の瞬間、彼等は自分達に圧し掛かる気配を感じた。餓鬼が出現した亀裂は閉じておらず、感じた気配が徐々に濃くなっていくのを彼等は理解していた。それがどういう意味なのか、彼等は肌と全身で知っている。


 「村正殿、ここからは注意した方が良いだろう」

 「大丈夫でござる。ただあの容姿、剛鬼殿と同等のようでござるが……?」

 「……うむ」


 頷く餓鬼の表情は硬くなり、目の前に姿を現した黒騎士を見据えた。その視線を受けた黒騎士は、足を止めて周囲を観察するように首を動かした。やがて黒甲冑を完全に消滅させ、その姿を完全に現した。


 『ここが現世か。へぇ、話で聞くよりも良い所じゃねぇか』

 「まさか、貴殿が現世に来るとは」


 腰に手を当てる黒騎士に対し、剛鬼はその黒騎士の名を呟いた。


 「久しいな。――黒騎士が一人、龍鬼りゅうきよ」

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