第25話 3人でダンジョン宿泊
「じゃあお父さん、行ってきます」
「ほ、本当にいいのか? 城でゆっくりしててもいいんだぞ?」
「いやいいですので。もし必要なものがあったら取りに行くから」
「しかしダンジョンには寝床がないんだろう? そういうのは……」
「野宿慣れてますので」
古城の城門前。ただいまレイアとサーベイさんが絶賛格闘中だ。
格闘と言っても言葉の応酬で、それもサーベイさんが必死に引き留めている感じではあるが。今のレイアは「しつこいな」とか思っていそうな顔をしていた。
俺たち……というよりレイアが家出を決行することになったのだ。必要な小道具などをカバンに入れていることから本気っぷりが窺える。
理由があるとするなら、やはりあのワーウルフだろう。俺たちが行為に及んでいる間、あんなことがしょっちゅうあったら……。
「……それで何? リミオさんも付いて行くの?」
「いや、さっき護衛になるって言っただろう!? レイアに付いて行かないと意味ないじゃないか!?」
「レイアにはフユマがいるんだけど? フユマのこと信じてないの?」
「もちろん信じているけど、しかしお前を守る奴が2人いた方が効率いいだろ? それにお前には友達がいなかったもんだから1人いても……」
「チェス仲間のプチデビルがいるんですけど」
「それも知っている! 友達というのは……何というか歳が近いという意味でな……彼女は人間換算17だから仲良くなれるだろうし……」
面倒くさそうにため息を出すレイア。子煩悩の父親を持つのってのは大変そうだ……。
でもまぁ、気持ちは分からなくもない。
彼女は俺と一緒にいる時間が欲しいに違いない。恋人水入らずという辺りだ……と言いたいところだが、付き合ってほしいとか言うの忘れてたから恋人なのか微妙だが。
俺も出来ればレイアとの時間が欲しいところ。
しかしだからといって、リミオさんを邪魔者扱いしたり排除したりしていい理由にはならない。そういうのは最低な奴がやることだ。
「まぁ、サーベイ様から課せられた仕事だからね……。でも不都合だったら、なるべくプライベートの侵害はしないからさ」
「いや、別にリミオさんが悪い訳じゃ……その……」
「ん?」
「何でもない……」
すねているレイアに、リミオさんが微笑む。
年上だからか結構大人な対応しているなぁ。なおサーベイさんが言っていた『人間換算』というのは人間に例えるとそういう年齢だという意味で、逆に実際の魔物としての年齢は……いや、ここで考えないことにしよう。
「とにかくお父さん、そろそろ行ってくるね。あと付いて行かないように」
「う、うむ……お前がそう言うのなら……。じゃあフユマ、ちょっと話があるんだがいいか?」
「俺?」
俺の背中にサーベイさんの前脚が回ったあと、隅っこの方に移動させられた。
レイアたちから話し声が聞こえないようにしているかのようだ。
「先ほど言ったように、お前はファフニールダンジョンのマスターになってもらう。といってもダンジョンが奪われないように守るだけでいいから、いつも通りダンジョン攻略はしてほしい」
「ええ、そのつもりです。それとこの『幻獣の伝承の書』、貸して下さってありがとうございます」
「なに、別に誰も読んでねぇからな。そのままもらってもいいぞ」
俺はそういうタイトルの書物を拝借していた。
これは城の図書室で見つけたものだ。目次にファフニールという文字があったので、これは調べた方がいいと持ってきたのだ。
「ともかく金もいいのか? 本当に遠慮なんてしなくても」
「俺ハンターですので、稼ぎたくなったらまた仕事すればいいだけですよ。その辺は大丈夫かと」
「そうか。じゃあ連絡は【ワープ】スキルを持つワーウルフでしておくからな。それと儂の勘違いならいいのだが、お前レイアのことが好きなんじゃねぇか?」
「……えっ?」
「えっ?」
「……えっ??」
……バレた? しかもよりにもよってサーベイさんに?
えっ? えっ!?
「サ、サーベイさん!? いやこれは!!」
「否定はしないんだな。すごく分かりやすいぞ」
「うぐっ……」
しかも勘が鋭いときた。
やっぱりあれだろうか。魔獣の娘に手を出したから拷問だーとか!?
「落ち着け、まずは深呼吸だ。お前は儂の弟なんだから、別にどうこうしようって訳じゃねぇよ」
「でも……俺!」
「それにな、儂としては恋仲になるのはむしろ賛成なんだ」
「……えっ?」
賛……成?
その意外な言葉に、俺の目が点になってしまった。
「恋愛はその者の自由。だから儂はレイアの母親と添い遂げたのだ。それにレイアはどちらかというと魔物より人間の血が濃いらしくてな、その影響か魔物より人間に恋を抱く傾向にあるらしい」
そうだったのか。
半魔なら魔物に恋心を抱いてもおかしくはないと思ったが、そういうこともあるとは。
「それにフユマと一緒にいるレイアを見れば分かる。あいつは心の底からお前を慕っている。この前にお前が泣きじゃくった時にレイアが慰めたことがあったろ? あの時の表情、まさに儂が愛する妻と同じものだったよ……」
「サーベイさん……」
「……っと湿っぽい話をしてしまったな。結果としてそうなってしまったようだが、儂はお前がレイアの愛する者になってよかったと思う。お前ならレイアを守ってくれる……そう信じているよ」
「……ありがとうございます。でもそれなら何で、女性のリミオさんを護衛に付かせたんですか?」
俺たちの事情を知っているのなら、それとは逆のことをするのだが。
しかしサーベイさんは俺の予想に反するようにフッと笑う。
「これに関してだな、リミオに惑わされずレイアをちゃんと愛せれるのかを試しているというのもある。儂もその辺をハッキリさせたくてな、レイアを愛想つかせてしまったらそれまで、でも逆に愛し続けるのなら万々歳。ということなんだ」
「……厳しいっすね、兄さん」
「何、これもお前を信頼してのことだ。もちろんリミオにはレイアの友達になってほしいというのもあるから、そういうところは見守ってくれねぇか?」
「はぁ……友達はいた方がいいですしね」
その辺のことは大賛成だ。ただ兄さん、俺を試す為にリミオをよこしたってのはある意味えげつないです。
サーベイさんは割と腹にイチモツというか、どこかずる賢い感じがある。そうでもなければ魔物の首領なんてやっていけないと思うが、今後振り回されることがありそう。
そもそも軍隊を滅ぼせるような強大な魔獣と兄弟になるなんてな……。まぁ、従魔契約と似たようなものと思えばいいかもしれない。
これが前にいた街のギルドが知ったら驚くことだろう。……そういえば街か。あれからどうなったんだろう。
「それとレイアはまだ14だ。知っているとは思うが……」
「子供産めないんですよね。まぁ何とかします……」
実は子供を産める年齢は17だ。それ未満は宗教的に禁忌であり、もししてしまったら厄が降りかかるとか。
まぁ焦ることはない……スマタで何とかなるだろう、多分。
「もう話し終わったの?」
そこにレイアがやってきた。
待たせてしまったせいか拗ねた顔をしている。
「おいおい、いくら話し終えたと言ってもそっちから来るこたぁねぇだろ。じゃあフユマ、あとはよろしくな」
「はぁ……」
「それとレイア、もし寂しくなったらいつでも帰ってきていいんだぞ? むしろちょくちょく帰んないとお父さんが寂しく……」
「行こうフユマ」
レイアによって手を引っ張られてしまう。話をさえぎられたサーベイさんはただ固まるしかなかったようだ。
俺らはリミオさんのところにいって、【エリアポイントテレポート】の準備を始める。
「じゃあ行きますよ。それでリミオさん、話は聞いていると思いますけど……」
「あの伝説のファフニールがダンジョンになっているんでしょう? それがどうなっているのかって思うとワクワクするのよね」
リミオさんが顔を輝かせていた。
これは一刻も早くファフニールダンジョンに向かいたいという意思表示なので、すぐに【エリアポイントテレポート】を始めた。
『やっと帰ってきたか』
「ああ、ただいま」
そして例の如く、下半身のないファフニールとその部屋に到着。
そいつを目の当たりにしたリミオさんが、驚いたように目を見開いた。しかしそれは一瞬のことで、まるで感激したような表情をする。
「本当にあのファフニール!? うわぁ、初めて見たけど、なんてたくましい姿じゃない!」
『リミオだったか。貴様のことはフユマの剣を通して聞いている。私を見ても怖くないんだな』
「そりゃあ、あなたにとって私は
後輩とはどういう意味だろう。
そんな疑問を尻目に、辺りを興味津々に探索するリミオさん。「ほぉ」とか「へぇ」とか言っているのが今どきの若い女性らしい。魔物だけど。
「ねぇフユマ君、この中を攻略するんでしょう? 今からやるの?」
「ああ、もう夜だし明日にしようかと。【エリアポイントテレポート】もその時にならないと回復しないですし」
「そっか。それは残念」
【エリアポイントテレポート】が一日に使えるのは6回だけ。
また日をまたげば使用回数が復活するのだ。
「また適当にその辺で寝るかもしれないけど、まぁ大丈夫だよな」
『寝る……となるとアレが使えるのかもしれないな』
「えっ? アレ?」
『ああ、今なら寝床を作れるだろう。お前の力によってだが』
突然の意味深なファフニールの台詞。俺の力というのは、もしかしてスキルのことだろうか?
……それは我ながらワクワクするな!
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