第三章 スキルゼロ剣士と魔族美女
第23話 無断侵入ダメ、絶対
それはある日のことだ。
「……えっと、あった。これだ」
俺は今、1冊の本を読んでいた。
これはサーベイさんの城内にある図書室からもらってきたもので、名前は『幻獣の伝承の書』。つまり伝承に出てくる魔物などを記してあるのだ。
元々こういう書物が好きだったので、たとえ分厚くとも読むのが楽しい。でも今回は目当てのものがあったので、ある程度ページをすっ飛ばしていた。
そして見つけたのが『鋼の魔龍ファフニールの伝承』という項目だ。
「これが知りたかったんだよな」
ファフニールと接触してから長い時間が経っていた。そろそろ奴の詳細を知りたくなってくるのも、人間の
奴に関する内容についてはこうだ。
ファフニールは数千年の時を過ごしている魔龍であり、その身体は未知の流体金属によって構成されている。
その流体金属は伝説のミスリルやオリハルコンほどじゃないが、それでも既存金属よりもはるかに強固で、またファフニールの意思によって形状変化するという特殊な性質を持っている。
この特殊な金属を手に入れようと、国がファフニール討伐を掲げたことがあった。数千に及ぶ軍隊がファフニールに向かったという。
しかしファフニールは禍々しい火を噴き、大地すら抉る蛮力によって軍隊を撃破していった。それだけではなく、彼の身体から無数の眷属魔物が生み出され、結果として自身を討伐しようとする国自体を蹂躙したとされている。
それからというものの、ファフニールは同格の龍と戦いに明け暮れていた。
奴を含めた龍たちは総じて『魔龍』と分類されている。それはドラゴン系はおろか魔物の範疇すら越えた、まさに生きた災厄。しかもそういったのが数体もいたとされている。
奴らに近付くというのは、それすなわち死を意味している。
決してそれには近付いてはならない……と。
「ファフニールとその同格の龍たちが災害そのものか……本当に今現れたら厄介だな」
……なんて思うが、今のファフニールの姿からだと想像付かないな。
今じゃあ、自分が融合したダンジョンに引きこもっている印象だ。いや、あいつがものすごく強いってのは分かっているし、本当に引きこもっている訳でもない。この伝承だって信じているよ?
本人的にはあのままでもいいと思っているだろうから、あまりとやかくは言わないけどさぁ。何か伝承の剥離というかなんとうか……。
『今、変なことを考えたのではないか?』
「イエ、別ニ。何モ考エテイマセン」
『何故カタコトなんだ』
ロングソードからファフニールの質問が来たが、俺はそうとしか答えられなかった。
にしても、遅いなレイア
今、俺はある部屋にいるのだが、レイアたちの方はその隣部屋で寝ている。
こうして本を読んでいるのも、彼女たちが起きてくるのを待っているからなのだが、それなのに彼女たちが一向にこちらに来ない。
何かあったのだろうか?
あまりしてはいけないと思うが仕方ない、こっちから起こしてみようか。
俺は立ち上がり、隣部屋に続く扉へと向かった。
「おーい、起きているかー?」
声をかけてみる。しかし返事はない。
うむ……直接中に入ってみようか。ドアノブに手をかけて、ゆっくりと中を覗いてみる。
「まだ寝ているか……な」
俺はその中を覗いた途端、全身が固まってしまった。
「……あっ、すごい……レイアちゃんもっとして……」
「くっ……そう言ってられるのは今のうち……フユマは渡さないんだから……」
「んん……あっ……」
つい先日出会った女性の知り合いに対して、乳揉みをしているレイアの姿があった。
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レイアの魔法発現に成功したあとのことだ。
俺はサーベイさんに連れていかれるように古城に戻り、宴の食事を振舞われた。海からとってきただろう魚介類、巨大鹿の丸焼きなど、以前のよりも豪華な食事だ。
それらを食べ終わったあと、俺は自分の部屋で死んだように昼寝していた。泣き腫らして色々疲れていたというのもあるだろう。
そうして数時間後、俺は自分の訓練がてらレイアに基礎的な戦闘力を身に付けさせた。この子は機動力が低いのでなるべくそれらを上げていきたい。
それで意外や意外、ものの数時間で俺の攻撃をかわせるようになった。
半魔だからというのもあるだろうが、この子には素質があるのは間違いない。
それで空が夕方になったのを見て、訓練を終わらせた。
そのあとにレイアからこう言われた。
『フユマ、あとでいいから部屋に来て』
一瞬ピンクな妄想をしてしまったが、さすがにないと思いたい。そんな上手くいけたら、俺どんだけ運良すぎたよ。
汗を水に流してからレイアの部屋へと行ってみた。まず最初にノックしてから、彼女の返事を聞いて中に入る。
「レイアの隣、座っていいよ」
ベッドに座り、布巾でガントレットを磨くレイアの姿があった。嬉しそうな顔で、それはもう大事にガントレットを手入れしている。
俺はお言葉に甘えてベッドに座ったあと、彼女の顔を覗く。
「それ、気に入った?」
「気に入りすぎてやばみが深い。もうずっと大事にしたい」
ニコニコと答えてくれるが、やばみが深いなんて聞いたことがないよ。
それよりも気に入って本当によかった。逆に嫌がっていたらどうしようと思っていたしな。
というかあれだ、名前がないと不便だ。
名無しのガントレットなんてのは寂しい限りだ。
「それの名前なんだけど……」
「レイアがもう付けた。『ザズリア』なんだけど」
「あっ、それ伝説の鎧の名前だっけ。それはいいかもな」
ザズリアというのは、神々が着るとされている伝説の鎧であるらしい。
もちろん伝説なので本当にはないだろうが、確かに鎧の一部であるガントレットに相応しい名前かもしれない。
「うん、我ながらいい名前って思ってる」
「そっか……そっか」
「…………」
「…………」
「…………」
「……えっと、俺が考えた名前聞きたくない?」
「えっ? 言うの?」
そりゃあ言うよ! 俺だって武器の名付け親になりたいんだから!
それにレイアから感想が欲しいし。
「じゃあ……どうぞ」
「えっと『ファフニールガントレット』ってやつなんだけど」
「却下」
「酷い!」
まさかの拒否されるなんて! ……まぁ、レイアの武器なんだから、その辺は彼女の自由だよな。
そう話している内にガントレットの手入れが終わったらしく、それを机に置くレイア。
「……本当に嬉しいよ、フユマ」
恥ずかしそうにうつむきながら、照れるように言ってきた。
「ゴルゴンデリアから助けてくれたし、こうしてザズリアも作ってもらった。嬉しくてたまらない」
「……それはよかった。俺もそれが聞けてよかったよ」
そこまで言われたら、やりきった甲斐があったというものだ。
それでレイアがやっとこっちを見て、
「……フユマ、好き……」
ハッキリと、俺に向けてそう言った。
「……それは、友達としての好きってことかな?」
テンプレ的だが、俺は聞き返してみた。
対してレイアが俺に近付いて、そして抱き締めてくる。
「そうじゃない」
二人一緒に、身体をベッドに倒れ込ませた。
レイアが上に、俺が下になっている形になっている。彼女から伝わってくる繊細な柔らかい身体と優しい香り……。
「……これで分かった?」
「……ああ。実はなレイア、俺も……」
「うん、言わなくてもわかってる……」
何だ、さえぎられちゃったか。
でもこれでハッキリした、俺たちは両想いだったんだ。それが分かった途端に胸が高まっていく。
ああ、そうだ。俺はレイアのことが好きなんだ。
好きで好きでたまらない。多分初めて、女の子に対して恋に落ちたんだと思う。
この子を欲しいという気持ちでいっぱいなんだ。
「……揉んで、フユマ……」
「えっ?」
「だから……ここ……」
レイアが俺の手を掴んで、あろうことか自分の胸に引き寄せる。
……柔らかい。服越しだというのに、手のひらから吸い付くような感触があった。女の子の胸ってこうだったなんて。
理性がなくなりかけた俺は、無性に胸を揉んだ。時々力を強くしてみる。
「フユマ……あっ……フユマ……」
フユマが俺の手で喘いでいる。可愛い顔をしてくれて……。
もう駄目、耐えられない。この子が欲しい……全部欲しい。
「レイア……俺、君と……」
「失礼いたします。お客人、親父から話が……あっ」
「「…………」」
唐突に部屋にワーウルフが入ってきて、俺たちは固まってしまった。
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