第97話 友人と怪物と化した王

「王は、俺を神にする前から多数の魔法を一人の人間に集める研究をしてたんだ。一番信じられるのは自分だけという王の思想通り、自分でね」


もしかして、アイリスが言っていた"王は怪物になってしまった"という言葉は比喩でもなんでもなく。本当の怪物になってしまったという意味なのだろうか。


3つの魔法を入れられ苦しむアイリスの姿が頭に過る。

もしかして、あの痛みに耐えた末がアレだったというのだろうか。天音以外が魔法をいれられるとあぁなってしまうのだろうか。

どのみち、人格は消え、あの怪物のようになってしまうのだろうか。


「うん。みんなが思ってる通りだよ。王は怪物になってしまった。とうの昔にね。もう理性もほとんど残っていない。」


「どういうことだ…?王はついさっきまで人間の姿をしていたではないか」


「王は1日の間、6時間置きに人間の状態と怪物の状態が入れ替わっちゃうの。怪物の時の記憶は無いから平然とした顔で王を続けてる。自分が怪物になっていることを知らないわけ」


「そ、そんな…」


「王都の騎士は、様々な工作をしてた。エリスをはじめとした回復を使える魔法使いを攫おうとしてたのもそれが理由」


動揺するパーティをよそに魔王は、再び襲ってきた肉塊を殴り飛ばし、部屋の端っこの方に行った。


「では、王都の騎士は国民に隠蔽していたということですか?使えない王を王でいさせるためだけに」


魔王はそう言って、いつのまにやらチルハの作った縄で拘束されていたアイリスを小突いた。端っこに雑に寄せられている王都騎士の唯一意識がある人間だった。


「意地悪な言い方をするのですね。マオちゃん」


最も王に複雑な感情を抱いていたのであろうアイリスは言い返さない。


「いじめてやんなよ。実際、怪物じゃない時の王はめっちゃ臆病なだけの優れた為政者だったわけだし」


「ははっ、実質自分を殺そうとしていた人を優れた為政者と言うのでありますか」


「ホント綺麗ごとばっかで嫌になりますよね~」


魔王が嫌がらせとばかりにアイリスにすり寄った。天音は「お前どっちの味方だよ」と顔をしかめる。


「っていうか、魔王お前も知ってただろ」


「いやぁ、私が知っている情報では精々一時間程度でしたよ怪物になるのは。対等なビジネスパートナーとしているために意図的に隠していたのでしょう」


要するに、最初は数時間だった怪物になる時間が増えて行って今の状況まで特に打破する案は見つからずにここまできてしまったというわけか。

それは、魔王のような王位を狙っている人物には決定的な弱味だ。


「それより、あれはどうやったら倒せるんだ…?積極的に攻撃してくるわけではなさそうだが」


「今の王は理性が無いから、獣と同じなんだと思う。敵意があるものに攻撃を返すだけ。だからこの程度ですんでる。」


「え、じゃあ簡単に倒せるじゃないッスか?姐さん魔法いっぱい持ってる神なら一発では?」


「お前ねぇ…魔法を操る魔法、要するに範囲内にいる人は誰一人魔法使えないんだぞ。寧ろ俺の唯一の天敵だよ。攻撃方法が直接攻撃しか…うお…っ!?」


触手のように肉塊が伸びて天音を襲った。天音は地面を転がるようにしてなんとか避けた。


「弱点とか知らないんですか貴方」


「知ってたらこんなことになってねーわ!」


「ではアイリス。貴方は」


「吾輩に王を倒す弱点を教えろというのでありますか。」


「はい。貴方達の責任でしょう。このままでは民は魔法は使えず、怪物となった王に襲われでもしたら大変惨いことになりますよ。」


「ホント、マオちゃんは人の嫌がる言い方を熟知していますね」


「誉め言葉です。魔王ですから」


アイリスはため息をついてから、天音の方を向いた。


「女神様」


天音は「もうそんなんじゃないよ」と力なく笑う


「吾輩の魔法なら、王を殺せるであります」


アイリスは静かに、しかし、はっきりと言った。


自分を拾った、という王を殺す。数年間殺せずに傍にいたぐらいに愛着があった相手にそんな言葉を言うのはどんなに勇気がいることなのか想像に難くない。


「簡単な話です。吾輩の血液を、王に飲ませれば良いであります。」


それでも、その顔は、確かに覚悟を決めた顔だった。



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