第96話 これから友人と国家転覆をするのだから
「あの、この状況でイチャつきます?」
氷点下みたいな魔王の声が俺達の浮かれた空気を裂いた。
馬乗りに鳴っていた天音がギャグマンガのように俺から転げ落ちる。
魔王は俺の顔を一瞥してから天音に喋りかけた。
「この状況から推察して、貴方を味方だと捕らえてよろしいのでしょうか」
「…轟介の味方であってお前の味方じゃねーし」
「十分です。ゴースケは私の味方ですから。」
そんな軽口を叩いているが、魔王の頬から血がたらりと流れた
「ねぇみんなは…?」
天音は震えた声で魔王に尋ねた。
まさか、俺達が外に出ている間に騎士に…!?
そんな最悪なシナリオが頭に過るが
「アマネちゃぁあああああん!!!!!!!!!!!」
「ぐへっ」
「姐さん!!!!!!!!!!!!!!」
「ぶべっ!?」
両サイドからチルハとヒートが天音に抱き着いた。
「バカバカバカバカ!!!!!アマネちゃんのアンポンタン!!!!!!!!」
「なんで俺達を置いていっちゃうんスかぁぁああああ!!!ひどいッス残酷ッス!」
あれだけ文句をたくさん言ってやると意気込んでいた2人だが、いざ天音に会うと、子供のように罵倒するだけであった。
わんわんと泣く2人に挟まれて天音の目が潤む。
自分を愛してくれている人間の存在を実感し、幸福感と罪悪感に板挟みにされ、緩む唇を必死に結んでいた。
「ごめん、俺…」
「ホントッスよ!!!!!!マジで色々説明して欲しいんスけど?!」
「でも割といまそれどころやないから、後でちゃんと話してもらうで!」
「ヒート…チルハ…」
「あの、それより、その男の人はどなたッスか…?」
「ひわわわわわっっ!?全裸やん!」
チルハの悲鳴で自分が全裸であったことに気づいた。
当然だ。ゴーレムは武装がいらないから。
コイツらにとっては知らない男が全裸で天音とくっついていたことになる。完全に不審者の変態だ。
俺は首と手を振って精一杯否定する。すると
「もしかして…ストーンキャットか?」
俺の背後からアランが現れた。俺は何度も頭をぶんぶんと振り回し肯定する。
「うん。ゴースケだよ」
天音が俺の代わりのように言った。
硬派で大きくて強いゴーレムであったゴースケがこんなに芋っぽい陰キャだと知ったら幻滅してしまうのではないか、急に不安になってきた。
なかなか第一声を発することができない俺にふわりと布がかぶされた。
「と、とりあえず服着て!」
「あ、あ、ありがとう」
「「喋った!!!」」
「助かったよ。チルハ」
「「名前呼んだ!!!」」
「珍獣か、俺は」
「「笑った!!!」
「ものすごくやりにくい」
「すごい!!思ったよりツッコミタイプの人ッス!?」
たびたび脳内でお前らの行動にツッコミを入れていたからな。
天音は会話をする俺達を見て満足そうに笑っていた。何傍観者ぶってるんだ。
「感動の再開シーンは終わりましたか?」
ウィスパーボイスに近い声質の割にやけに通る魔王の声が、場の雰囲気を変えた。
「では、光の勇者さん。アレ、説明してもらっていいですか」
魔王は突如襲ってきた肉塊のようなものを蹴った。魔法がある時よりも格段に威力は劣っているが、牽制には仕えたらしい。肉塊は遠くへ滑っていった。
「今のは…」
俺が尋ねると魔王が無言で上空を顎で指した。
それを目にいれた瞬間、全身の血管が張り詰めるような緊張を覚えた。
地獄が存在するのだとしたら、きっとあぁいう生物がいるのだろう。
この世の気持ち悪く恐ろしい物を無理やり丸めて合体させて生物にしたら、あのような生物になるのかもしれない。
直視できないぐらい、気持ちが悪くグロテスクな生物が屋根を覆うように広がっていた。
暗い紫の肉には、目と口がいくつもついていて、そのうちの1つが俺の方を見た時、思わず悲鳴を上げてしまいたくなるほどの恐怖を覚えた。
「王の成れの果ての姿、だね…」
天音は、哀れみと、諦めと、焦りが入り混じった複雑な顔でそれを言った。
俺達は、今からあの怪物と戦わなくてはいけないらしい。
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