第68話 ある日友人は神になった

第5区から王都まで、1 週間と5日歩いた。

第3区から王都までがまた長いのだ。第2区と第3区の身分の差のようなものを嫌でも感じてしまった。


そんなわけでなんとか王都についた。途中何度も魔獣との死闘などがあったが割愛する。

久々の王都はやはり5区や3区に比べると男が多く、そのほとんどが騎士だった。そして、その暮らしも裕福そうで、服も良いものを着ている人が多い。


「……今、依頼に行くっぽい騎士がいたッスね」


「魔王が倒されてもなぜか魔獣は健在だからな」


「や、やっぱ魔王が倒されたこと知らなされてないんかな?」


今通りすがった下級騎士達の会話の内容からして恐らくチルハの言う通りなのだろう。では天音は何のために見つけ出されたのか?そんな疑問が横切った時


「号外~!号外で~す!!」


商店街の魚屋のようによく通る大声が耳に入った。町の中心部分で新聞を配っている男がいる。よく見ると、すれ違う人間みんな、同じ紙を手にしていた。


「もらってくるッスね!」


ヒートが元気よく飛び出し、フリスビーを持って帰ってくる犬のように、楽しそうに4人分受け取って戻ってきた

紙面を読みやすいサイズになり、開く、その一面には見知らぬ老人の顔写真が載っていた。誰だろう。


「あ、ゴースケくん読める?これ、この国の王様やで」


俺が首をかしげているとチルハが解説をしてくれた。

そういえば以前みせてもらった新聞にもこの顔が乗っていた。どこにでもいる優しそうな老人だ。


「王様、明後日には重大発表を行う?」


チルハがかわいらしい声で見出しを読み上げた。


「発表の内容が何かは書いてあらへんね…?」


「ここの王サマサプライズと祭が好きッスからね」


王都の騎士が任務で遠征にいくだけでパレードを行うのは、少し違和感を感じていたがそれも王の嗜好というわけか


「……ハニーが王の側近になったというのなら、確実にその集まりにでているだろうな。」


アランが呟く。これは好都合だ。発表前に王都にたどり着けてよかったと安心した。



そうして、俺達は2日後を迎えた。


城の前は、転生してから初めて見るような大きな人だかりができていた。町のほとんどの人間が集まっているかのようにも見える。

仕事に無気力な人間が多い街だと感じていたが、民衆の王への忠誠心は意外にも高いようだ。

俺達はそんな人だかりのなか、目立たないように、アランにくっついて全員透明化している。


予定時刻から2分遅れて、城の一番出っ張った部分から王が顔を出した。

王は確かに優し気などこにでもいそうなおじいさんだった。裕福そうというよりは小突いたら折れてしまいそうな細い老人だ。それでも王なのだと感じさせる威厳のある服装とオーラがどことなくあるように見えた。


「っ!?奥におるの天音ちゃんや!」


双眼鏡を持っていたチルハは叫ぶ。

アランの魔法は音は消せないため何人かがこちらの方を向くが、人が多いため誰が叫んだかなんてわからないだろう。


「落ち着くんだリトルキャット。想定内だろ?」


「せ、せやね…ゴメン」


しかし、王の言葉は


「このたび!!!!新たに王都に強力な魔法使いが生まれた。これにより、我々の国は大きく変わる!!」


老体にもかかわらず、為政者らしいハキハキとした話し方だった。

その壮大な内容に民衆は大きくざわつく。


嫌な予感がした。


後ろの暗闇から、大きな袖、高そうな白い布に、金色の装飾が施された神秘的な衣装を身に纏い、高級そうなティアラを被った少女が現れた。


その姿は神々しく、王よりもよっぽど王らしい、姿だ。


しかし、その目は生気を感じられず、見えるもの全てを楽しい物、好きな物として瞳に映していた天音とは逆に、見えるもの全てが自分とは別世界の出来事のように達観している目をしていた。


だから、俺は信じたくなかった。


「姐さん…」


ヒートの口から零れ落ちた天音の名を聴くまで、それが天音だということを信じたくなかった。


その冷たい目、人智を超えた美しさ、

そうだ、魔王に似ているんだ。


「綺麗…」

「あんな美人初めて見た…」

「あの人が強力な魔法使い?」


"天音のような何か"の登場により、人混み内で聞こえる言葉は全て天音に関するものに塗り替わる。


王が深く息を吸った音が聞こえた


「この方は、女神である!!!!!!」


……女神?


天音が?


普段だったら荒唐無稽なこんな宣言、笑い飛ばしていた。

天音なんて俺の10倍笑い飛ばしているだろう。

しかし、天音は表情はピクリとも変えず、無表情で王の隣に立っていた。


「この方はただ一人。”真実”が見える方である。その方が我々の味方をしていただけるとおっしゃった!!勝利の女神である。これにより、クーデターは二度と起こらない平和な世が続くだろう!!」


民はざわつく。いきなり現れた美少女を、自国の王が女神と称するなんて異常である。


「……戸惑う気持ちもわかる。まずは力を見てもらおう。」


王が、天音の肩に手を置いた。

自分が触られたわけではないのに頭がカッと熱くなる。


「そこの坊や」


王が肩車をされていた裕福そうな男の子を指さす。「え、俺?」と子供は戸惑う。天音は、最低限の動きで子供に目を移した。


「貴女の名前はシグマ・クアルス。10歳。第2区出身の父と第1区出身の母を持つ今日の朝はブレッドに目玉焼き。初めて覚えた言葉は…」


ツラツラと天音はその男の子の心を読み上げていく。魔法の力を目の当たりにした民衆は見惚れるように、その姿を見ていた。


それから王が指した人物の、普通ではわからないような情報を次々と読み上げていく。

気づかなかった。天音の魔法は戦闘面での力は大したものではない。しかし、政治面ではこれほど強力な魔法は無いだろう。

敵の嘘がわかるだけではない、この宣言により、天音がその心を機械的に読み上げるだけで、それが"真実"になってしまう。


王が「この男はクーデターをたくらんでいる」と言い天音がそれを肯定するだけで、民にとってはそれが"真実"になってしまうのだ


「何これ…」


そんな中でチルハが泣きそうな声で呟いた。


「これじゃあ、アマネちゃん神様になってまうよ…」


この民衆の目の輝きは、間違いなく天音に陶酔した顔になってしまっている。


この天音の姿をした神様に、この場にいる全員が心を奪われている。


王の発表の日に間に合ってよかったなんて思っていた俺は本当に馬鹿だ。もう遅かったんだ。

天音が王都の騎士団の手をとった時点で、俺達の行動は全てが遅かったのだ。

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