第41話 嘘つきな友人からでた真

その夜。俺達は野宿を決行した。

チルハの力でテントを出し、器用な天音がキャンプ飯を披露するなどして、そのノリは合宿のようなノリに近く意外と楽しかった。


その後、天音が就寝時の見張りを決めるジャンケンをしようと自分から言い出した。そして現在、見事に一人負けした天音は、一人でたき火を見つめていた。


「お、ゴースケも起きててくれんの?」


寂しがりのお前が一人で夜の見張りなんてできるわけないだろうからな。話し相手ぐらいにはなってやる


「やさし~」


そんなことない。どうせお前が寂しくなって誰かしら起こすだろうが。誰かに迷惑かける前になんとなく起きてただけだよ




「…オイ」


みんなが寝静まったのか、物音が自然音のみになった頃。

ウーサーが俯きながら立っていた。


天音はまるで来るのがわかっていたように、「おいでおいで」と自分の膝に誘導しようとした。「子ども扱いすんな!」とウーサーは怒りつつ人間一人分ぐらいの間をあけて天音の隣に座った。


「どうしたどうした?寂しくなちゃった?一緒に寝てやろうか?子守歌とか歌ってあげよっか?こう見えてカラオケの帝王とか呼ばれてたんだぜ俺」


「なんでそんな浮かれてんだよウザっ」


「俺こう見えて年下は猫かわいがりしたくなるタイプの人間なんだよ~オラオラ!」


そう言いながら犬を撫でるようにウーサーの頭をボサボサにしていく。ウーサーは不満そうに「やめろっ」を連呼する。


「で、どうした?言いたいことあるんでしょ?」


「………俺、王都の人間が嫌いだ」


ウーサーの赤い癖っ毛が風に揺れた。

まるで目の前でバチバチと音を立てて燃え盛るたき火のようだった。


「俺のすんでる町、魔王城に一番近くて、毎日魔物が現れるのに、騎士は全然来てくれない。お前らみたいな下級騎士でも倒せるのに、なぜか誰も助けに来てくれない」


王都と第5区は離れている。少なくとも3日はかかるだろう。王都周辺で魔物を倒した方がコスパが良いに決まっている。だから第5区は貧民街なのだろう。

そんな予想がついた。


「近所の兄ちゃん、魔法はショボいけどそんな俺達を守ろうと剣の腕を磨いて騎士に立候補したりしてたけど、第5区出身の時点で落ちちゃった。王都は俺達のこと人間だなんて思ってない」


俯いていたウーサーはもう一度天音を見つめて、改めて言った


「だから俺。王都の人間が大嫌いだ。」


「…そっか、俺達も?」


「…うん。だからなんで俺を助けるのか理解できなかった。でもみんな嘘つかないし、ちょっと能天気だけどいい奴ら…だと思わなくもない。」


照れ臭そうに視線をそらした。天音はそんなウーサーを笑顔を作りながらもじっと見つめてる。心を読んでいるのだろうか。


「じゃあ、俺は?」


「…」


ウーサーは天音に初期のような警戒するような視線を向けた。


「お前は、お前はすごく嘘つきだ」


俺からは子供にとってはこのパーティの中では一番天音がとっつきやすく話しやすい人物であると思っていた。

そのためウーサーの警戒するような目が意外で仕方なかった。


「そうだね。おねーさん嘘つきだ。みんなにいっぱい嘘ついてるよ」


天音はウーサーの言葉を受け入れるとでもいうように、そう言って目を伏せた。


「でも、俺を助けたかったって言葉とか、仲間が大事なのとかは全部本当で、でも光の勇者について何も知らないのだとか、俺達なら魔王を倒せるだとか、は嘘だ。意味わかんないよ。普通逆だろ!?」


要領を得ない言葉をなんとか紡ぎだして天音に伝えようとしている。俺にはウーサーの訴えていることがよくわからないが、ウーサーが天音に対して恐怖を抱いていることは伝わってきた。


天音は、その要領を得ない言葉と心を読む魔法の合わせ技で少年の言いたい事を理解したのか、ニコリと恐怖を和らげるような笑みを浮かべた。その笑みにウーサーの体が強張った。逆効果なようだ。


「大丈夫だよウーサー。俺もお前と同じなだけ」


「…?どういうことだよ」


「お前、他人の嘘がわかるんでしょ?」


それがウーサーの魔法であることに、遅れて気が付いた。

人間不信のような態度、時節観察するように見つめる視線全てがこの能力故だと納得がいった。


恐らく的確に言い当てあられたウーサーは小さく頷いて返事をする。


「俺とお前だけの秘密ね」


「お前も嘘がわかるのか?」


「そう。俺人の心読めるの。だから光の勇者に心当たりがあったし、魔王を倒せる可能性があるなって思ったわけ」


「な、なんで、みんなに言わないんだよ」


その言葉にハッとさせれた。俺も聞きたかった言葉でもある。もうここまで来たらパーティのメンバーに伝えても大丈夫なのではないか。正直俺はそう感じていた。

しかし、天音の答えは意外なものかつ、天音らしいものだった。


「だって、自分の心が読めるやつと今まで通り接するのって無理じゃない?」


天音はちゃかすように言った。


人好きの天音が、人を愛し愛されることが大好きな天音が、そんなことを言えるはずがないのだ。


「大丈夫。俺達は同類だから。俺は変わらないよ」


自分の中で納得がいったのか、ウーサーは強張らせていた身体の力を抜いて、再び天音の横に座った。


「嘘じゃなかったろ?」


「うん…」


俯きながらも少しは天音に心を許したようで先ほどより距離が近くなっていた


「…俺の魔法は、嘘か本当かしかわからないけど、お前の魔法は全部見えちゃうの?」


その言葉に、この小さな少年が今までどんな苦労をしてきたのかが詰まっていた。

きっと、知りたくなかったことも、見たくなかったものも見てしまう、そんな魔法なのだろう


「…全部見えちゃう。けど、俺、空気読めないとかよく言われてたから、この魔法が使えるようになってちょうど良くなったかも」


天音はウーサーの頭に手を置いていった。


「だから、これはこれで楽しいしいい事たくさんあるよ」


それからウーサーが来た時から縮んでいた俺を持ちあげた。


「それからコイツとお喋りできるのはこの魔法のおかげだから、むしろ感謝しかないかも」


ウーサーはその答えと、天音の表情を見て納得できたのか「わけわかんねぇやつ」と笑って、天音に寄りかかって眠ってしまった。

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