第39話 仲間思いの友人はなぜか俺をこねくり回した

ヒルダは、きっとチルハの好奇心と行動力は純粋無垢で残酷なものだった

。2人で絵本を読んだ幸せな日々をあっさりと捨ててしまえるものに。


そんなチルハに嫉妬のような失望のような感情を抱いてこの部屋でずっとその感情と向き合ってきたのだろう。


対してチルハはどんどん前に進む。振り返らずに。

否、振り返った先の姉は怒りの感情を露わにしていたのだろう。


きっとこの姉妹の溝は簡単に埋まるものではないのだろうな。


「もう用は済んだだろう.。でていけ」


ヒルダは自嘲気味にそう言ってから俺に退室を促した。


俺はもう一度お礼代わりに礼をする。ヒルダはこちらを見ずにしっしっと俺を追っ払った。


俺はあえて、扉ではなく窓から飛び降りた。


ヒルダがギョっとした顔で窓から下を覗き込む。


俺は下に着地してから巨大化する。ちょうど窓の近くに寄ってくれたヒルダを肩に乗せて。


「ひわっ!?なんのつもりだ!!」


俺には残念ながら頭を下げることでしか礼を伝えられない。こんなことがお礼になるのかわからないが。たまにはどうだろうか。


俺は、他の住民に迷惑にならないギリギリのところで大きくなるのを止めた。

ここの地区は2階建て以上の建物が一切ないため王都以上に景色が良い。


「…フン。高い所から景色を見せてご機嫌とりか?」


ひ、ひねくれてるな。


「しかも悪趣味な王都までしっかりと見えてしまうじゃないか」


そうだった。この人は魔法の遠視だったな。きっと俺とは見えている世界が違うんだろう。


「たった一つの一族を守るためにできた都か…本当に悪趣味だな。美しない魔物も見える。ゴミのように小さな人間も。アイツはよくこんな所を駆けずり回れるな」


見えるものを一つ一つひねくれた見方で批評するその言葉に反して、言葉尻は若干浮かれているように見えた。

その景色は残念ながら俺には見えないものだが、まぁ話し方的にきっと楽しんでくれているのだと思っておこう。


「まぁ、悪くはない景色だな。愚妹にはお似合いだ」


…言葉が話せたのなら、チルハは楽しそうだという事を伝えたかった。


夜中に俺の寝床に忍び込んで魔物に効く毒を試そうとしたりするなど困ったところもなくもないが、それでも毎日笑顔ですごせているよ。


―――――――――――――




「―――なるほどねっ」


その夜。俺の心を読んだ天音が呟いた。


「洗脳か~~~そりゃ誰一人魔王城いかないわけだわ。納得」


相変わらずの軽薄なノリだ。ゲームの攻略法をやっと見つけたみたいな温度感にしか見えない。


「もっと当事者意識を持てって?」


やはり心を読める力というのは厄介だな。読まなくていいところまで読んでしまう。


お前は当事者だ…とまでは言わないが


…まぁお前の魔法があれば光の勇者をわざわざ探さなくても、魔王を倒せてしまえるのではないか?


「…まぁそう思よね」


なんだ。その含みのある言い方は。


「いやいや、だから俺もウーサーの心読んだ時に俺、行けんじゃね?って思っちゃったんだよね。でもさぁ魔王倒したらどうなると思う?」


珍しく真面目な調子で天音は言った。


魔王を倒したら…魔物がいなくなるから平和に森を行き来できるんだろうな


「そう。魔物がいなくなる。そしたら下級騎士の仕事がほとんど消えるんだよね。そうすれば俺ら、完全にこの世界での居場所が無くなる」


今以上に居場所が無くなるわけだな。


「俺達はいいかもだけどさ。チルハにもヒートにもアランにもこうやって家族がいるわけじゃん?そしたら家族にまで危害が及ぶかもしれない」


チルハの家族と触れ、天音も思うことがあったのか。珍しく暗い顔をしていた。

天音のそんな顔をみるのは久しぶりかもしれない。


もしかしたら、光の勇者も天音と同じ理由で謎の勇者として現れて消えていったのかもしれない。


でも大丈夫だよ天音。王の騎士団たちも光の勇者を探してるってことは王都も魔王を倒す意思はあるんだって。天音が考える結末は最悪の場合だ。

最悪の場合の可能性だけを視野に入れるなんてお前らしくないな。


「何、励ましてんの?ウケる」


ウケるな。こっちは真剣に言ってたんだよ。


天音はナハハと笑って小さな俺をこねくり回した。なんの表現だよ。

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