第37話 話し上手な友人をよそに核心に近づく②
腰より長いであろう黒く長い髪に宇宙人のように白い肌。それでいてチルハと顔立ちは瓜二つ。人外になったチルハのような見た目をした背の高い女性
――ヒルダは。明らかに敵意むき出しな目でこちらを見つめていた。
「あ、あの、おねえちゃん。悪い人達やないよ…」
「百歩譲ってその子供と岩の塊が悪い人じゃないとしてもお前は悪い!!!!」
急遽叫びだしたチルハの姉に、思わず一歩下がる
「ああ忌々しい忌々しい…無神経な妹め」
「ひわわわわわわわわ」
「すぐ被害者面するんじゃない!!大体!何故窓から入ってくる!?とりあえず扉から試さないか?!普通!!」
「だっておねえちゃん正攻法で行ったら開けてくれへんやん…」
「当たり前だろう!!引きこもりは少なくとも3回以上粘らないとドアを開けないのだ!!!」
突如始まった姉妹喧嘩に俺とウーサーは呆然と立つことしかできない。
第一チルハの行動に擁護のしようがないからだ。
しょうがないので、先程から気になっていた絵をじっくり見てみることにした。
ほとんどが青で構成されているように見えたのはその絵の大部分を空が占めていることが理由らしい。
淡く明るい色で描かれた空の下、漆黒に近い暗い緑をあしらった森の奥、さらに禍々しい雰囲気をした魔王城が描かれていた。
俺は芸術的な素養が皆無であるため絵画の詳しいことは全く分からないが、この絵は空が大部分を占めているにも関わらず魔王の城がメインに捉えられているとわかるほど、異様な雰囲気を醸し出していた。
そういえば初めて魔王の城を視認した時もそのような感覚を抱いた。
「ほう、岩の塊かと思ってたが、美醜がわかるのか?」
気づいたら後ろにヒルダが立っていた。
「ゴーレムの癖に小心者なんだな。そんな驚かなくてもいいだろう」
高飛車な雰囲気に反して思ったよりも友好的に話しかけられて驚いているのだ。
「私は、その城に魅入られてからずっとここから見える城の絵を描き続けてるんだ」
「王都の城とどう違うんだよ」
ウーサーが俺の持っている絵を覗き込んで揚げ足を取った。
「全然違うぞ坊主。あんな造り物のゴテゴテとした趣味の悪い建築と一緒にするな。王のために作られたものと、外から見る恐怖と中に入る騎士共を翻弄する複雑なダンジョンのようになっていることが予想される魔王の城…あぁ!!!!創作意欲が湧いてきた!!どけ!愚妹!」
「ひわわわわわ」
自分が喋ると姉の地雷を踏むと理解して黙っていたのであろうチルハを押しのけ即座にキャンパスに向かい筆を走り始めた
「どけ!デカブツ!!!窓からの景色が見えん!!」
理不尽な気迫にやられ、すぐに小さくなった。怖い。
「おねえちゃん、あぁなるともう話聞いてくれないんや…出直そうか」
「ふん。今は創作意欲が湧いてきて機嫌がいい。用件だけなら聞いてやらんこともないぞ。片手間だがな。」
キャンパスから一ミリも目を離さずヒルダは言った。チルハの顔がパァっと明るくなる
「あ、あんな!ウチら今魔王を倒せる勇者、光の勇者っちゅうのを探してるんや」
「あぁ、光の勇者…美しくない野蛮な騎士団がウチの地区にも来ていたよ。無駄足だったようだがね」
王仕えの騎士団…来ていたのか。当然か。俺達より1週間近く早く出発しているだろうから。
「ほ、ほんで、このウーサーくんのために今光の勇者を探しとるところなんや…おねえちゃんなら何か光の勇者の手がかりをもってるんやないかって」
ヒルダの筆がピタリと止まった。しばらくそのまま硬直してからキャンバスからぬっと顔をだしてウーサーを見つめた。その品定めするような視線にウーサーは俺の後ろに隠れる。
「ふむ、まぁ、持っているよ。光の勇者の手がかりになりそうなこと。王仕えの騎士団とかいうダサい奴らには教えてやらなかったやつが」
「ほ、ほんま…!?」
予想外にも好感触な反応に驚いた。こんなに早く手がかりがもらえるとは…
「ただしお前には教えてやらん」
ヒルダは自分の立ち位置が高くなったとばかりに、勝ち誇った笑みを浮かべ筆でチルハを指した。
「ひわ、なんで…?」
「お前が気に入らんからだ。だが、その岩の塊になら教えてやってもいい」
歯が見えるほどの笑みを浮かべたヒルダは今度は俺を筆で指した。俺は思わず「本当に俺か?」という確認も込めて自分を指さす
「あぁ。お前だ。どうやら意思疎通はできるようだな」
「ちょ、ちょっと待ってってコイツ喋らないんだぞ?正気か?」
「せやせや!ゴースケ君に喋って何の意味があんねん!」
「私はね」
ヒルダはピーチクパーチクとひな鳥のように文句を言う2人言葉の圧だけで黙らせた。
「お前がムカつくんだ。チルハ。」
先程部屋の隅で震えていた女と同一人物だと思えない程堂々とした態度で笑った。
「だからこれは私からの意趣返しだよ」
チルハは"なんで"と口を開きかけた口を閉じて俺の反応を見た。これ以上ヒルダと話していても逆鱗に触れ続けるだけだと思ったのだろう。
正直に言うと天音が俺の心を読んでしまえば完璧にヒルダの言葉を伝えることができる。みんなは気づいていないがこれは、思ってもいない好条件な取引だ。
俺はなんとか「大丈夫」という意思を伝えようと手で丸を作ったりとジェスチャーをする。
「うう、ゴースケくんが何伝えとるのか全然わからん~!」
伝わらないらしい。
「…後で、あの金髪女に伝えればいいんじゃないか。アイツならなんかコイツとコミュニケーションとれてんだろ」
「せ、せやろか…」
でかしたぞ。ウーサー。そのまま自然に出て行ってくれればきっとヒルダも機嫌よく話してくれる。
機嫌が悪い女の取り扱い方なんて俺にはわからない。特に喋ることのできない今その難易度は超級だ。頼むからできるだけ機嫌を損ねないように…
「はやく出ていけ!!」
もう遅そう。
そんなわけで、どこに地雷が隠れているかわからない、機嫌が最高に悪い活火山みたいな人間と2人きりの空間に俺は取り残されたのである。
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