第19話 恋せぬ友人はワルツを踊る
昼食後、アランと天音は驚くほど普通のデートを続けた。
再び市場を物色し、美しい並木でお互いを知り合うような会話し、劇場まで自然な流れで劇場まで連れてこられた
どう考えても俺はお邪魔であるが、さりげなく抜けようとするたびに天音が「どこ行くんだよー」「お前も見るだろ?」なんてわざわざ引き留めてくる。
…まぁ、実はアランがトールの仲間とかで油断したところを急に攻撃…なんてしてきたら戦闘力の無い天音では太刀打ちできないからな。
いざという時のために俺を置いておきたいのだろう。
「それにしても、こんな国に劇場なんてあるんだな~」
「戦士にだって娯楽は必要さ。今日の演目は恋愛ものだが、honeyには退屈かな?」
マジか。完全に天音を落としにかかっている。
俺の方が緊張してしまっているのだが、天音は本当にわかっているのだろうか
正直に言う。俺は正直そういった恋愛が主題の映画やミュージカルを見るのが苦手だ。
あまりにも縁が無さ過ぎてこちらが恥ずかしくなってしまう。童貞ここに極まれり。
「へ~俺意外とそういうの好きだよ」
対して、天音はこう見えて生前彼女がいたぐらいなんだ。一緒に恋愛映画ぐらい見ててもおかしくないだろう。ますます俺が居づらい雰囲気になってしまう。
「轟介はこういうの苦手だったよな?大丈夫?」
俺になんて構わなくて良いのにアマネはからかうような笑みを浮かべながら、俺を摘み上げて尋ねた。
「ストーンキャットにも映画の好き嫌いがあるのだな」
「そーそーコイツ童貞だから」
余計な情報を入れるな。
「…嫌だったら、俺が無事だってチルハとヒートに伝えてきてくれよ。アイツら心配してくれてる可能性あるし」
いや、絶対心配してるよ。お前、自分が思っている以上にあの2人から懐かれているぞ。
まぁ、兎にも角にも実にありがたい提案だ。
「2時間ぐらいで終わるって!後で合流しような!!」
そんな天音の声を背中で受け止め、俺は西区に戻ることにした。
----------------------------------
ちょうど日が落ちきった頃、俺は劇場の前のベンチに腰掛け、楽しげに感想を言い合う2人のところへ戻ってきた。
ちなみにヒートとチルハは半日間ずっと挙動不審に騒いでいたようで、俺が天音の無事をジェスチャーで伝えると安心して脱力しきって笑っていた。
非常に申し訳ない。後で天音にもこの男にも謝らせよう。
「よー!轟介!ありがとな~!」
ベンチに腰掛け楽し気に語らっていた天音は、小柄になった俺を見つけると子供のように駆け寄ってきた。俺が天音のポケットに入ると、天音はペットをあやすように俺の顎あたりを撫でた。
「面白かったぜー演劇」
「あぁ…実にトレビアンだった…」
やはり二人共映画の趣味も合うらしい。
「この胸の高まりがあなたに伝わるでしょうか」
アランが急に跪いて言った。
天音は訝しげな顔をするが、すぐに、その言葉がどういった意味を指すのか思い当ったようでニコリと得意げに微笑んだ。
「ええ、私もあなたと同じ気持ちよ!だってあなたといると心が躍ることばかり」
あぁ、なるほど、これは先ほど見た演劇の台詞なのか。天音の慣れなさそうな女言葉を聴いてぼんやりと思い至った。
「でもいけないわ、私はあの人のものにならなければいけないの。…えっと、なんだっけ…そう!…だからあなたと一緒にはなれないわ」
たどたどしくも、劇にでてくる女を真似た天音の反応にアランは、どことなく嬉しそうなオーラを出した。
「では、せめて今宵は私と一緒に踊っていただけませんか?」
アランは天音の手を取って往来を踊りだした。
天音は「え?!」「俺踊れないんだけど!」なんて小さい声で戸惑うがアランは「問題ないさ」とでも言うように微笑み踊り続けた。
魔法だろうか。
こんなに目立つことをしているのに誰一人気にするものはいない。
二人は楽しそうに人混みをかき分けながらワルツのような踊りをする。
天音は全くステップがわかっていなそうだが、アランが自然にリードをし、やけに楽しそうに踊っていた。
天音のポケットに入っている俺には目が回る光景だ。
コーヒーカップに乗っているときのようなこの空間に酔ってしまいそうだ。
この気持ちは爽快感とは程遠く自分が他人の幸せな夢に潜り込んでしまったような居心地の悪い気持ち悪さがした。
「できることならあなたと逃げ出してしまいたい」
これも映画の台詞だろう。アランは大袈裟に、悲しげに演じる。
「素敵な提案ね」
天音は意外にもスラスラと返事をした
「でも」
天音は目を伏せて歌うように続けた。
「私はきっと、あの人を見捨てることなんてできやしない。あなたのことは大好きだけれど」
あぁ、なるほど
「俺はあの人を幸せにしてあげたい」
先程二人が見ていた映画は悲恋ものだったのか。セリフに反して天音は幸せそうに笑った。
「…一人称が戻っているぞhoney」
そう返すアランもやけに柔らかく笑っていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます