第18話 好奇心旺盛な友人ははしゃぎまくる
「ここは?」
「初めてかい?マイハニーここはセントリア市場といってこの国一番の大きさを誇る市場さ。」
この国は大きく分けて4つの区域に分かれている。俺達が普段行動しているのは西区だ。この市場はちょうど反対の東側にあるらしい。
俺達の区域は、壁の落書き、明らかに指定じゃない場所に積まれたゴミだめ、などといった比較的治安の悪そうな光景が目立っていた。
それはこの国の治安自体が整っていないことが原因だと思っていたが、この区域の活気にあふれた市場の様子を見るにそれは西区だけの話なのかもしれない。
城で王に仕えているのであろう使用人らしい人やギルドで料理人をやっていそうな人、その家族などが談笑や買い物を楽しんでいる風景は生前見た商店街を思い出す。
アマネは目をキラキラとさせ今にも走り出しそうに…
「もーー我慢できないっっ!!」
走り出していった。
「ふ、とんだ暴れキャットちゃんだ…」
特に幻滅する様子も無くアランは気障(?)なセリフを言いながら後を追った。
「なぁ!これなにこれなに!!?」
子供の用にはしゃぐ天音。
ここのところ、所謂娯楽というのが飯ぐらいしかなかったのだから楽しくてしょうがないのが痛いほど伝わってくる。陽キャはショッピングとか好きそうだもんな。
「これは魔犬の燻製さ。祭りでは定番だな」
「これは?」
「アイモモの実さ。甘くて女性に人気なものだ」
なにもかもが初めて聞く単語だ。なるほど興味深いな。
俺も天音の肩にしがみつきながら陳列されている様々なはじめてを物色する。
それにしても、不思議だ。こんなにはしゃいでいるのに、町の中の人が誰一人天音を見ていない。
今までは町を歩くだけで明らかな敵意を向けた視線が向けられていたものだが、なぜだか普段より確実に目立つ行動をしている現在は全く悪い視線を感じないのだ。
「気づいたかいストーンキャット」
そんな声と共に体が浮いた。アランが俺を天音から外したらしい。
「これが俺の魔法だ。触れているものを透明にすることができるトレビアンな魔法さ」
なるほど、アマネを攫った時にヒートが魔法を打てなかったのはそういう理由だったのだな。汎用性が高そうな魔法だが、同格と言われていたトールの風魔法と比べると地味な魔法だ。
「マジ?じゃあ俺も今見えてないってわけ?」
「そういうことになるな!」
アマネ「へぇー」といいながらアイモモの実をかじる
「ンンー?マイハニー?ナチュラルに売り物を食べているがお金は払ったのかい?」
「え?俺を透明にしてデートってそういうことじゃないの?」
倫理観どこに置いてきた。
アランはアメリカのホームドラマのような大げさな呆れたポーズをとり、アマネの肩に手を置きさりげなく代金を店員のポケットに入れた。
「俺のクリアーな魔法はそんなギルティなことなことに使うためにあるわけじゃないぜ」
そういってどこからともなく手品のように一輪の花を差し出した。
「綺麗な花をかわいらしい少女に捧げるための…」
「なにこれ!すっげー!!」
アランが全て言い終わる前に、躊躇なく天音は花を口に入れた。
「ンンー?ンー?マイハニー?それは食べ物ではないぞー?モーニングを食べてないのかぁ?」
「なんだ、いい匂いするからてっきり食べ物かと思ったわ!たはは」
「ふ、マイハニーは天然なんだな…」
もらったものなんでも口にいれるとか赤ちゃんすぎない?
ちなみに、朝ごはんはきっちりパンを食べまくっていた。
「お腹を空かせているならそこでお茶をしよう…特等席に招待するぜ」
奇天烈な行動を頻発する天音を見限ることなくアランはデートを続行した。
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アランがそう言って連れてきた場所は、なんとも金持ちそうな家の屋根の上だった。
「すっげー見晴らし!!」
「フフ…ここは別荘だから滅多に主人も帰ってこない…」
コイツもコイツで、すげぇ倫理観してんな。いや、生前の法事国家の倫理観を持ってこられても筋違いなのかもしれないが。
天音とアランは会話を弾ませながらサンドイッチを食べている。
会話に混ざることのできない俺はただ景色を眺める。段々俺、邪魔な気がしてきたな。先に東区に戻って天音が無事であることをヒートとチルハに伝えようか。
そんな事を考えているとき、遠くに見える一つの異様な建物が目に入った。
「どうした?ゴースケ?」
アランとの会話を中断してアマネが言った。俺は遠くに見える古城を指さした。
実は俺もたびたび巨大化するときに見えて気になっていた物件だ。
巨大化するときは大体戦闘中であるため真剣に考える余裕などなかったわけだが、こうしてじっくり見ると今にも朽ちそうな禍々しいオーラを感じる。
「…あぁ、アレ?なんだろうなー?」
「知らないのかハニー?!」
信じられないといった顔でアランは言った。
「あれは魔王城だ。俺達が最後に倒すべき相手だぞ」
「やっぱり魔王とかいるんだなー」
「どこから魔物は発生してると思っているんだ…」
「え、野生かと」
「世間知らずなのだなハニーは…」
「だって、じゃあ、なんでさっさと魔王城を叩かないの?ギルドに依頼だって張ってなかったよな?」
「……」
アランは呆けたようにしてから押し黙る。
「アラン?」
「……honeyこの事はあまり詮索すべきでないよ」
やけに優しい顔でアランは言った。
「俺達のレベルでは魔王になんて太刀打ちできないってだけの話さ」
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