第9話 明るい友人は何かを隠す
「どう!?俺のパーティー入る気になった?」
西の森の魔物を殲滅した後、その足で酒場に帰った天音は、トールに向かって一枚の紙を差し出した。
酔いつぶれているのか、酒瓶に埋もれて机に顔をうずめていたトールは、寝ぼけ眼で紙束を受けとった。
「…なにこれ?俺酔いが覚めてないのかな…?」
トールは目をこすりながら、明瞭としない声で言った。
「このギルドに集まっている依頼4分の1を1日で終わらせてきた!!」
逆に天音はやたら溌剌とした声で、すすにまみれの満面のどや顔で言い放った。
「俺と、轟介とヒートが!!」
実は、あの夜。天音はこの酒場を出る前にちゃっかり依頼をチェックしていた。
そして今回討伐した魔物の数も数えていたらしく、条件を満たした依頼を全てはぎ取った結果、この数になったらしい。
「…いや夢?」
トールは、そう言って気絶するように眠ってしまった。
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「ちっ、張り合いの無い酔っ払いめ。さっさと換金するぞ!ヒート」
「合点招致っす!俺行ってきます姐さん!!」
あ、呼び方姐さんで落ち着いたんだ。
ヒートは強豪運動部の元気な一年生のように必要以上にハキハキデカい声で返事をし、換金所に駆けていった。
「くるしゅうない。くるしゅうない」
慕ってくれる後輩ができてご満悦なようでホクホクしている。
生前もバカすぎて後輩に尊敬されていないことを仲間内でいじられている光景をよく目にしていた。こんなに懐いてくれた後輩は初めてなのだろう。
「どうだ轟介。俺の完璧な指揮は。見直した?」
手のひらサイズの俺を同じ目線まで、持ち上げて天音は得意気に笑った。
あぁ見直した見直した。
お前にそんな指揮の才能があったとはな。と伝えたいところだが、ゴーレムの姿では伝えられるはずもなく頷くだけにしておいた。
「ふっふふーゴースケもすごかった。お前やっぱ最強だよ」
なんでお前は俺の力をそんなに買っているんだ。
アマネは、余って放ってあったとみられる、倒れた椅子にそのまま座り、俺をじっと見つめた。
改めて顔立ちを見ると、多少幼くは見えるが生前の天音を彷彿させる造りになっている。
やはり目の前にいる人物は都合よく俺に親しくしてくれる美女ではなく、まぎれもなく疎遠になっていた幼馴染である天音であるのだなと実感した。
しかし、これだけ見つめられるとさすがに意図が気になるな。
俺は大げさに首をかしげる仕草をする。
「…ずっと聞きたかったんだけどさ、お前死んだときのこと覚えてる?」
ドクン、と心臓が大きく跳ね上がった。
目覚めて以降全く気にしていなかった核心のような部分にいきなり刃を突き付けられたような感覚だ。
――実を言うと、俺は全く死の前後を覚えていなかった。
生前の記憶は確かにある。しかし、どうしてコイツと一緒に異世界転生するような死に方をしたのか、どうやって死んだのかが全く記憶になかった。
家で一人でカップ蕎麦をすすっている光景が一番最後のハッキリとした記憶である。
もしかして、とんでもない死に方をしたのだろうか。
または、とんでもない迷惑をかけて天音を巻き込んで死んだとかしていないのだろうか。
天音に言葉を突き付けられてから一気に不安が込み上げてきた。
俺は力なく首を振り、覚えていないという意思を示した。
「…な~んだ!!俺もだよ!」
珍しく真面目な顔をしていた天音は一気に明るい笑顔に戻った。
ヒヤリと首の後ろから冷や水を垂らされたような奸悪になる。
天音は生前どうやって死んだか覚えている。
根拠はない、ないはずなのにそう確信した。
何故隠す?
もしや、俺はコイツに殺されたとか?
いやいや、そもそも疎遠だったし殺されるようなことは何も…
「見てください姐さん!!ゴースケさん!!」
そんな時、音量バランスの狂った声が俺の思考を遮った。
かなり重量のありそうな巾着袋を持って、ヒートが戻ってきた。ご主人様が投げた玩具を持って帰ってくる大型犬のようだ。
「換金所のお姉さん目を丸くして驚いてたっス」
「そうだろそうだろ!!ふふっ今日は祝杯だな!」
「俺は正直クタクタで寝たいので夜にしましょう…」
「根性の無い奴だな!!しょうがない奴め!」
正直俺もクタクタだ。体はゴーレムなので疲れないが、精神的に疲れた感じがする。思考がまとまらない。
……そして、今どんなにひっくり返って考えてもコイツが俺を殺す理由が見つからない。
そもそも現在のコイツが俺に加害意識を持っているとも思えないしそれを隠せるよようなやつだとはとても思えない。
きっとこれは今考えてもしょうがない事柄なのだろう。
俺は天音の手の中でウトウトとしながらそんな結論をだした。
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