第23話『目黒のサンマン・2』
秋物語り・23
『目黒のサンマン・2』
主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)
※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名
AKG48の第一巻『目黒のさんま』の売り上げは好調だった、話が面白い。
ある日殿様が目黒まで遠乗りに出た際に、供の家来が弁当を忘れてしまった。
殿様以下腹をすかせているところに、今まで嗅いだことのない旨そうな匂いが漂ってくる。そこで殿様が何の匂いかと尋ねる、家来は「この匂いは下衆庶民の食べる下衆魚、さんまというものを焼く匂いです。決して殿のお口に合う物ではございません」と答える。
殿様は「こんなときにそんなことを言うておられるか」と家来にさんまを持ってこさせた。それはサンマを直接炭火に突っ込んで焼かれた「隠亡焼き」と呼ばれるもので、殿様の口に入れるようなものであるはずがない。と……食べてみると非常に美味しい。殿様はさんまという魚の存在を初めて知り、そして大好きになった。
それからというもの、殿様はさんまを食べたいと御所望である。ある日、殿様の親族の集まりで好きなものが食べられるというので、殿様は「余はさんまを所望する」と言う。だが庶民の魚であるさんまなど置いていない。家来は急いでさんまを買ってくる。
さんまを焼くと脂が、いっぱい出る。これでは体に悪いということで脂をしっかり抜き、骨がのどに刺さるといけないと骨を一本一本抜くと、さんまはグズグズになってしまった。こんな形では出せないので、椀の中に入れて出す。魚河岸から取り寄せた新鮮なさんまが、家来のいらぬ世話により醍醐味を台なしにして出され、これはかえって不味くなってしまった。殿様はそのさんまがまずいので、家来に問いただす。
「いずれで求めたさんまだ」
「はい、日本橋魚河岸で求めてまいりました」
「ううむ。それはいかん。さんまは目黒に限る」
家でDVDを見た、コロコロと笑った。枕の話しもナルホドだった。最近は、さんまが不漁で、高級魚並み。これは、海流の流れが変わったせいらしく。こんなことが、もう十年も続いたら落語にならない。
また、落語の中には季節ものというのがあり『目黒のさんま』は秋ものになることなど勉強になる。
一瞬、学校の勉強も、こんな具合ならいいのにと思った。
で、もう一つの目黒。
目黒のガールズバーは、渋谷ほどの激戦区ではない。一見穏やかで素人っぽく、客あしらいに慣れた麗は、余裕というか、物足りなささえ感じるほどらしい。
バイトの数が多く。店全部で二十五六人。シフトがややこしく、まだ顔を見たことも無い子が何人もいるらしい。そして、客の中にAKG48の第一巻『目黒のさんま』を持ってくる男がチラホラいることに気づいた。女の子がカクテルを渡すときに、ナニゲにとりあげて、「おもしろそう」「あたし知ってる」などと言っている。
そして一週間ほどで見てしまった。
自分より、ほんの少し早く上がった子が、駅前でタクシーではない自動車に乗り込むのを。
麗はピンと来た。お持ち帰りだ……。
で、その子がさっきお店で『目黒のさんま』を見て、客となにやら言葉を交わしているところも見た。
それ以来、目黒の店に出ることを止めた。
「なんだ、麗ちゃん。目黒の店は?」
「店長、あの店、お持ち帰りやってる」
その時の店長の顔色で、渋谷の店長は知らないことが分かった。
「あいつ、客あしらいのイイ子が欲しいって言うから……」
「あたし、そういう仕事はやらないから」
数日後、目黒の店に警察のガサイレが入った。どうやら『目黒のさんま』を手に取ることがOKのサインだったようだ。それ以前は「コースター替えてくれる」が符丁だった。「はい」と言って違うコースターを出せばOK、同じ種類のコースターならNGあるいは、お持ち帰り不可のサインだった。相場は九十分三万。店には一万のキックバック。客あしらいの下手な子が、沢山いるのもうなづける。明くる日の新聞には「目黒のサンマン」と出ていた。
麗は美花も誘って、渋谷のその店もやめた。
しばらく様子を見て、真っ当な店を探すつもりらしい。
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