第20話『拡散……!』
秋物語り・20
『拡散……!』
主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)
※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名
モニターを見つめたまま三人とも声が出なかった。
わたしは、例の件は親にも言わなかった。学校も、わたしが何も言わないので、気を遣いながら静観している。
そこに、麗から電話があった。渋谷のネットカフェMで待ってる。Mの前、電話でブースを確認してから、ネットカフェに入った。美花がブースから顔を出して、わたしを待ってくれていた。
「亜紀、ごめん!」
麗の言葉から始まった。
そいで、無言で開いたサイトに、なんと例の写真がアップロードされていた。そして数が増えていた。
「これ、雄貴の仕業だ!」
「分かってる。学校でも同じの見せられたから」
わたしは、生指の部屋で起こったことを二人には話していなかった。でも、ネットでアップロードしているのには驚いた。
「リュウの写真は別として、こっちの写真は合成だ……体は、あたしだもん」
「麗、こんなシャメ撮られてて気づかなかったの?」
「うん、これ、多分隠しカメラ。アングルから見て、観葉植物とか、飾り棚のとこ」
「じゃ、これは。このアングルは、スマホかカメラをまともに構えないと撮れないよ……」
「目つぶってたから、分からなかったんだと思う。ほんとにゴメン……」
――東京現役女子高生激写、都立○○高校か!?――
キャプションは、それだけで、看板をぼかしたうちの学校の正面の写真がついていた。わたしの顔には割り箸程度の黒い目隠しが付けられていたけど、両方とも見る人が見ればすぐに分かるシロモノだ。
「もう、消そうか」
あまり見つめているわたしに、美花が気を遣って言った。
「いい、もうちょっと。なにか手がかりになりそうなものを……」
男の顔は完全に写っていなかったが、体が部分的に写っている。それに脱ぎ散らかされた服が映っていた。
そのか細い手がかりをメモして、自分でシャットダウンした。
「麗……」
「なに……?」
「……何でもない」
言いたいことはあったけど、言えば、友だちとして取り返しの付かないことを言いそうで、わたしは無言のままネットカフェを出てバイトに行った。
二日たって、今度は保健室に呼び出された。
ドアをノックするときに管理責任者のシールで、そこの主が内木優奈先生だと分かった。
「例の件ですね」
見当がついていたので、こちらから切り出した。可愛そうに、先生のほうが取り乱していた。
「いや、その、あの、女同士で、年も近いから、わたしが、その……」
「学校が、先生に押しつけたんですね。で、学校の要求はなんなんですか。特別推薦の取り消しですか。まさか、辞めろって言うんじゃないでしょうね」
「え、辞めるって?」
「自主退学。事実上の退学処分」
「いや、そんなんじゃないわ。しばらく学校を休んだらどうかって……」
「梅沢が、そう言ってるんですか」
「いえ、これは、わたし個人の意見。もう他の生徒の間でも評判になりかけてるから」
「……知ってます。こういうのは拡散するのが早いですから」
「学校が抗議したら、学校の写真は削除されたらしいんだけど」
「もう、遅いです。コピーされて、また、他のバカが流します」
「そういうものなの?」
「ハハハ、先生って、アマちゃんなんですね」
「いや、ごめんなさい。こういうことにはウトイもんで」
「いいえ、先生には感謝してます。あのとき、キッパリとわたしじゃないって、証言してくださって」
「女なら、誰でも分かることよ。それに水沢さん見てると、そんなことする子じゃないって、分かるもの」
わたしは、この学校で、初めていい先生に会った。あの写真、ガールズバーに関しては本当だもの。
「わたし、学校は休みません。休んだら認めたようなもんです。指定校推薦取り消すようなら、訴えます。そう言っといてください」
「水沢さん……」
「こんなことで、負けたくないんです……」
内木先生が、そっとハンカチを出した。
わたしは、自分が泣いていることに、初めて気が付いた。
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