第19話『いったいだれが……』
秋物語り・19
『いったいだれが……』
主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)
※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名
十数枚の写真が目の前にバサリと置かれた。大阪時代の写真だ。
お店でお客さんの相手をしている写真……ロングや、アップが、どうやら隠し撮りされたように写っていた。
「これ、わたしじゃりません」
メイクをしているので、違うと言い張れば、通りそうなものばかりだった。
「わたしは、渋谷の本屋さんでバイトしてるんです」
「今はな。これは去年の夏の写真だ」
生指の梅沢が、淡々と言う。
「去年は、家出して、一夏北海道の花屋さんにいました」
「それがなあ、送り主は『サトコやトコと呼ばれて、水沢亜紀さんはガールズバーで働いていました』と書いてきてるんだ」
「いったいだれが……?」
「こんなのもある」
わたしの独り言のような質問には答えずに、梅沢は、別の写真をばらまいた。
その、十何枚かの写真は、私服で、ほとんどスッピンの写真ばかり。それに、例のサカスタワーホテルに吉岡さんと入る写真、フロントで二人で立っている写真、エレベーターに乗り込む写真が混じっていた。幸い吉岡さんの顔にはボカシがかけられている。
「これも、わたしじゃありません」
「こんなに、はっきり写っているのにか!?」
わたしは、雨宮さんが、北海道の友だちに頼んで作ってくれた写真が頭にあった。あそこまで合成ができるんだ。これらの写真を合成と言い張れると思った。
「これは、良くできた合成写真です」
「そこまで白を切るのかよ……」
「事実だからです」
「じゃ、これはどうなんだ!」
そこに投げ出された、写真は、はっきり合成だと言い切れるものだけど、とんでもないものだった。
「これが一番問題なんだよ!」
それは、わたしの首に差し替えられた、H本番中の写真だった。
さすがに、顔が赤くなった。
「動揺したな」
「当たり前でしょ、合成とは言え、こんな写真を見せられて!」
「オレだって、こいつばかりは見せたくなかったよ。でも、お前が白を切り通すから、見せざるを得なかった。さっさと白状しろ。たとえ一年前でも、こればかりは見逃しできねえよ!」
気づくと、三年の生指主任の大久保まで混じって、シゲシゲと写真を見ている。合成とは言え、屈辱感でいっぱいになった。
「そんなに見ないでよ!」
「水沢、お前、何度もこういうことやってるんだな」
「どういう事よ!?」
「この三枚は表情が硬い。まだ慣れていないころの写真だ……ところが、この一枚は表情が違う。どうだ、この恍惚とした表情は」
その顔は、自分でも分かる。クシャミをする寸前のわたしの顔だ。タキさんなんかがいっていた。トコのクシャミ顔は、ちょっとエロい。とかなんとか。
「これは、クシャミをする寸前の顔よ!」
「水沢、オレは写真部の顧問で、写真のテクニックには詳しいんだ。着衣の写真と違って、こういう写真は合成がむつかしいんだ。継ぎ目も見あたらんし、光の具合も自然なものだ」
「これって、もうセクハラよ!」
「そんな言葉で、オレたちが怯むとでもおもってんのか!?」
訴えてやる……その言葉が喉まで出かかった。でも、そんなことをしたら、反対証明もしなければならず、そんなことをすれば、北海道のウソもバレてしまう。
わたしは、屈辱の一枚を見て、あることに気づいた。
――この体は……麗だ――
写真の送り人の見当がついた。麗がシホとして、こういう関係になっていたのは雄貴しかいない。
「わたし、胸のこんなところにホクロなんかない、体の線も違う……なんだったら見せようか」
「そんなことまでせんでいい。ただ、お前が事実を認めればいいんだ」
「やってもいないことを……そんなこと認めたら、停学だけじゃ済まない。指定校推薦だって取り消しでしょ」
「当たり前だ、だからお前も必死で言い逃れようとしてるんだろう!」
「脱ぐ。担任の江角と、保健室の先生呼んで!」
迷惑と困惑が、二人やってきた。
「水沢さん、そこまでやらなくったって……」
保健室の、今年きたばかりの名前も忘れた女先生が言った。
「学校に縛られんのゴメンなんです。だから、さっさとケリをつけたいの……」
わたしは上着とチョッキを脱ぐと、ブラウスのボタンに手を掛けた……。
「あの体は、水沢じゃ、ありませんね」
「ホクロもないし……」
迷惑と困惑の答えだった。
「そ、そんな。ホクロなんていくらでも合成できる!」
「女同士だから、分かるの。亜紀の言うとおり体の線がまるで違うの」
「養護教諭の目で見ても、はっきり言えます。あの体は別人です」
「あんたたち、大変なことさせてくれたわね。保護者に訴えられたら、ただじゃ済まないわよ」
そう、ただじゃ済まなかった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます