第17話『このシアワセ者めが~!』

秋物語り2018・17

『このシアワセ者めが~!』     


主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)


 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名



「このシアワセ者が~!」


 思わず大きな声が出た。


 175センチの体を小さくして、秋元君は「まあまあ……」と手で制した。


 女の子のことで話があるというので、閉店後スタバで話を聞いてるとこ。

 要約すると、すごく簡単。その気のない女の子に言い寄られ、断るのに苦労してるってこと。

 ただそれだけ。

「テキトーに付き合っとけば」

 わたしは、もう立ちかけていた。

「そんなことでけへんよ」

「どんな子か知らないけど、秋元君が本気になってくれないからって、リスカするような子は、まずいないわよ。多分むこうだって、何人かいるうちの一人にしようってぐらいだろうし」


 このへんの男女の機微は、大阪で、だいぶスレてきた。シホとか店のバイトの子とか見てきたから。

 で、たまたま明くる日が、二人ともシフトから外れているので、放課後T大学まで行くことになった。

 駅のトイレで私服に着替え、地下鉄でT大前を目指す。


 ターゲットの子は、東京は多摩の子で、学部は文学部。シャメで人相姿は確認済み。秋元君のお友だちに居場所を確認。とりあえず、その居所であるキャフェテリアを目指す。


「よっこいしょ」


 お婆さんのような声を出して、ターゲットの横に名物のT大ドーナツとコーヒーを持って腰掛ける。

 で、ドーナツを囓りながら、スマホをいじる。

 買ったばかりで、扱いがよく分からないようにして……って、実際、買いかえたばかりで慣れていない。

「あら、アイホン5じゃないの!?」

「あ、ええ、買ったばかりでよく分かんなくて……」


 ターゲットが親切で、スマホに詳しいことは了解済み。


「……なーんだ、そうか。パケットとか良く分からなかったものだから。これ、シャメもスグレモノなんですよね」

 と、サリゲにシャメのスライドショー。

「あ、秋元君じゃん」

「知ってんですか」

「うん、クラブがいっしょなの」

「カレですか、もしかして?」


 すかさず直球勝負に出る。


「う~ん、申込み中」



 その顔で分かった。秋元君はワンノブゼムの扱いだ。



「いい人でしょ?」

「うん、まっすぐでね、強いくせして、自分でそれに気づかない。それに大阪の人だし」

「大阪好きなんですか」

「好きよ、あたしたちオチケンだし」

「オチケン?」

「あ、落語研究部……そっか、マイナーだもんね。同学のあなたが知らなくっても当然よね」

「わたし、ここの学生じゃないんです」


 それから、わたしが高校生だって分かると、彼女はびっくりし、オチケンのことをオチコボレ研究会と聞いたら、コロコロと笑われた。


「マイナーなのは分かってたけど、オチコボレ研究会って言われたのは初めてよ」

「どうも、まだ高校生なもんで……」

「でも、あなたって不思議ね。話してる感覚は、完全な大人なのにね。そうか、高校生……」

「はい、本業」

「なにか、並の高校生じゃないわね……」

 とても興味深そうに、わたしを見る。

「ああ、秋元君といっしょにバイトしてるから」

「でも、秋元君は、まだお子ちゃまの匂いがする。あなたのは別の要素だな……ね、友だちになってくれる。秋元君付きで」

「はい、喜んで!」

「あ、わたし鈴木雫。文学部の一年生」

「わたし、水沢亜紀です。学校は……S文化大学」

「え……」

「指定校推薦で決まってます。ここと比べると、かなり見劣りしますけど」

「そんなことないわよ。アニメから文学まで、文化に特化したいい大学よ。日本文学の三好教授なんて憧れよ。去年ウチの大学退官して、そっちに行った先生」

「へえ、そうなんだ!」


 そのとき、わたしが高校の名前を言わなかったことは、ごく自然だった……なんせ、アリバイ高校生なんだから。でも、偏差値40代に引け目もあったことも確か。


 そして、その高校生であることが、このあと祟ってくることになるとは予想もしなかった……。

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