秋物語 それは一学期の終業式の日に始まった

武者走走九郎or大橋むつお

第1話『終わりの始まり』

秋物語り・1

『終わりの始まり』       



 入院していたということにした、三人とも……大丈夫かな。


 そんな気持ちで学校に行ったけど、先生も友だちもなにも言わないし聞いてもこなかった。

 もう、新学期に入って一週間になるという九月の二日から、わたしは学校に通い始めた。


 季節の変わり目って、いつもドンヨリで気まぐれだ。

 嫌になるほどジトジト降ったり、ゲリラ豪雨があったり、竜巻、落雷があったり。この九月の始まりは、個人的な環境までドンヨリの気まぐれの気配。


 えと……あれは一学期の終業式の日だった……。


 わたしも高二の夏なんで、そろそろ先を見越して、自分なりに進路のことを考えていた。

 考えた末、リボンも襟首まで上げて江角に相談に行った。

「先生、進路のことで……」

「悪い、二学期か他の先生にして。あたし、これからカットビで出なくちゃならないから」

 開けっ放しにしている江角のバッグにパスポートが覗いていた。ほんのチラ見だけなんだけど、江角は慌ててカバンの口を締めた。


「国外逃亡でもするんですか?」


 軽い冗談のつもりで言った。


「亜紀に言われる筋合いはないわよ。個人旅行だけど休暇の届けも出してるんだから!」


 まるで、秘密がバレタた子どものように、ツッケンドンだった。このところいろいろあるわたしは、いつになくしつこかった。

「集会で進路部長の片岡先生言ってた。進路は二年の夏休みから始まる。悩みや、迷いや分からないことがあったら、担任や進路の先生に相談にいきなさいって」

「じゃ、悪いけど進路に行って。あたし月あけには帰ってくるから……」

「進学の吉田先生は出張、部長の先生は、担任とまず相談しろって言った!」


 職員室の半分ぐらいが、シーンとしてしまった。


「……分かった。あたしが昼抜きゃ済む話だから」

 振り返った江角の目は、因縁をつけられたスケバンのようだった。

「そこ、座って。で、どんな相談?」

 江角は勢いよく足を組み、引き出しからカロリーメイトを出した。

 わたしはムッとしたが、相談にのってもらう側なので、深呼吸して言葉を改めた。

「手に職を付けようと思って、アニメーターの学校にいきたいんです。一応候補は……」

 希望校の一覧をメモった手帳を出した。

「なんだ、入学案内とか持ってないの?」

「大事なとこはメモってあります」


 大切なことはスマホなんかに落とさずにメモ。学年はじめに江角自身が言ったことだぞ。


「アニメの専門学校って、高いんだよ学費も諸費も。亜紀んとこ妹もいるんだろ」

「弟です」

「あ、弟、弟」

「だから、奨学金を取れそうなところを……」

「バカね、成績とかなんとか、奨学金は条件厳しいんだよ。悪いこと言わないから、この夏に、よーく考えて、資料とか進路で見せてもらって、奨学金の取りやすい短大とか考えといで。チ、カロリーメイト湿気ってやんの。じゃ、みなさん、お先に失礼しま~す」


 周りの先生は、愛想笑いをして江角を見送った。


「最低だ、こんな学校!!」


 わたしはリボンをレギュラーなとこまで引き下げて職員室を飛び出した。


 呼び止めるどころか、目線を合わせようとする先生もいなかった……。



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