1秒以内に応じなければ荷物は捨てる

ちびまるフォイ

配達員は忙しい

家に帰ると郵便ポストに1枚の紙が入っていた。


『ご不在連絡票

 12時ごろに伺いましたがご不在でした。

 再配達されたければ連絡してください。


 保管期間は1週間。

 期間をすぎると荷物は破棄されます。』



「み、身代金を要求する誘拐犯かよ……」


どんなに丁寧な言葉づかいでも内容がキツければ意味がないんだなと思った。

とはいえ、荷物を捨てられてしまうのはかなわない。


「もしもし? 再配達をお願いします。

 えっと、時間は……午前中でお願いします」


自分が確実に家にいるであろう時間に再設定した。

週末がやってくると荷物が届くと思ってそわそわする。


「普段は疲れて寝ている時間だなぁ」


時計を見ながら感慨にふける。

気分が良かったのはそれまでで時間が進むにつれイライラしはじめる。


「もう11時だぞ!? 遅くないか!?」


よく考えれば「午前中」ってめっちゃ範囲が広いじゃないか。

午前5時だって午前中だし、午前11時だって午前中だ。

その間なんと6時間。


1日の4分の1の範囲をも占めるというのに、

どのタイミングで来るかはまったく予想できない。


午前中というから10時には届くだろうと思って立てた計画もぼろぼろだ。


「いかんいかん。イライラしたらますます時間が長く感じる。

 ここは少し落ち着こう」


今のうちにトイレも済ませておこうとドアの鍵を締めた時。

家のインターホンが鳴った。


ピンポーン。


「あ、はーーい!!」


慌ててズボンを上げてトイレを出た。

しかし、時すでに遅く玄関には紙切れが1枚。


「不在票!? 返事したじゃないか!!」


トイレから玄関まで1分もかかっていなかったのに。

なんて堪え性のない配達員なんだ。


「おのれ、どうしても配達したくないというのか……。

 いや、むしろ俺の荷物を破棄してたまらないのか。

 いずれにせよ俺はこれを挑戦と受け取った!!」


なんとしても配達員とエンカウントしなくてはならない。

もはや荷物などどうでもいい。


「……というわけで、交代で見張ることにした」


「あ、ああ。それでオレを呼んだわけね」


友達はいきなり部屋に来てほしいと頼んだことで、

襲われるんじゃないかと準備していたスタンガンを下ろした。


「配達員はどうしても俺に荷物を届けまいとしている。

 俺は絶対に負けたくない。必ず受け取ってやる」


「宅配センターに荷物が置いてあるんだし取りに行けばいいだろ」


「いいや! それダメだ!

 相手に頭をたれてひざまづき負けを認めたも同然じゃないか!」


「お前年取ったら絶対ガンコなジジイになりそうだな」


「とにかく! トイレも交代で入って常に玄関で待機するんだ。

 コンマ2秒でドアを開けられたら配達票を置き逃げできなくなるからな!」


「はいはい。わかったよ」


俺は友達と交代して玄関を見張った。


再配達時間指定はしているものの、

あの配達員のことだから時間をきっちり守ると限らない。

早すぎる時間に来たり、指定時間ギリギリを狙ったりも考えられる。


あらゆる可能性を踏まえて四六時中、寝ずの番で玄関待機が最もいいと判断した。


「ほら。アンパンと牛乳だ。ホシに動きは?」


「刑事ごっこチョイスが古すぎるだろ。

 なぁ、宅配センターがいやならコンビニ受け取りにしたら?」


「お前コンビニで受け取ったことあるのか」

「あるよ」


「だったらわかるだろ。荷物受け取りのときの時間にかかりよう。

 後ろに並んでイライラしているおじさんに圧力かけられながら

 頑張る店員に申し訳無さを感じながら受け取るなんてできるか!」


「単なる小心者じゃないか!」


そのときだった。



ーーピンポーン。



「きた!!」


友達は条件反射のごとくドアを開けた。

ドアの外にはキャップをかぶった配達員が立っていた。


「お届け物です。こちらにサインかはんこをお願いします」


「ああ、はい。よかったな。普通に届いたぞ」


友達はこちらに振り返って言った。

しかしどうにも拭いきれない違和感があった。


これくらいなら以前のトイレから出たときでも十分間に合ったはず。

あれだけ高速で不在連絡票を起き逃げた配達員にしてはお粗末すぎる。


「はっ!? ま、まさか!?」


慌てて振り返った。

別の男が今まさに外の窓へ配達票を貼り付けようとしている。


「騙されるな! 玄関のそいつはオトリだ!!」


窓の外にいる男は「しまった」とばかりに驚いた。

不在票を窓に貼って逃げようと猛ダッシュ。


「逃がすかーー!!」


逃げる後ろ姿にタックルを仕掛けた。


「とうとう捕まえたぞ! もう不在票を入れさせてたまるか!」


「ひ、ひぃぃぃ!」


「さあ、荷物を渡すんだ!」


男が逃げないようにしっかり捕まえる。

しかしいくら周りを見ても荷物らしいものはなかった。


「お、おい! 荷物は!? 荷物はどこにあるんだ!?

 あんた配達員なんだろ!?」







「配達員は不在です。私は不在連絡票員。

 配達員が不在なので不在票を書きますか?」

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